これまでのあらすじ
『病迷悪夢』
____ヴェレス山、山頂
此処では、斬鉄と栞が、二人の悪夢の住人____オオダチとテイリと交戦中
石捜索を始めて、10分もしないでやってきた二人
余りに突然の事だった
特に、栞は苦戦を強いられている
「っ……ク…!」
「…反撃して来ないとは」
栞は反撃をしない
電子機器が無い此の空間、己の持つ能力、”リモコン”で『早送り』等を駆使しながら攻撃を行うテイリ
何故、反撃をしないのか
____反撃が、出来ないから
栞が『旋律の歌姫』と呼ばれるのは、あくまで能力での成果による話である
彼女自身、体術は得意としない
彼女の能力、”歌”は、音の波長を操ったり、歌__ならぬ曲、音を発生させて相手を錯乱させたり、能力を上手い具合に駆使して音速移動が出来たり、打撃等を与えるときに振動を一点に集中させたり、空気を振動させて広範囲攻撃を行うのだが
こんな開けた場所だと、その効果が薄くなる
音速移動も、体術が得意でなければ意味が無い
上には青々と、果てまで広がる大空
____……不味いなぁ……………____
だから、反撃が出来ないのである
「……貴女に反撃する意思は無いと見ました。然し私は貴女に攻撃をし続ける。
此れ等から求められる計算式、その解は、『貴女に勝ち目は無い』____ッ!!」
「………っむ、反撃する意思はあるわちゃんと!!」
むっ、とした顔で答える栞
反撃する意思が無いのではない
____今、考えているっての……!!___
然し眼前にはテイリがもう、居る
「ッ___ハァッ!!」
「ぅ…っ、ぐ…!!」
超至近距離での、蹴り、からの突き上げ
蹴りは至近距離からではないと出来ない、当り前である
栞の身体が宙を舞う
そして降下
ドッ……__
「あがっ…!!」
激しく地面に、身体が叩きつけられる
____あんな、いきなり近くに居られたら、ビビっちゃうよ、もう……………。
……………あれ……?
……………近く、に……?
……………そうか、至近距離だ。
……至近距離、即ち小さい空間でなら、波長も振動も、遠くまで広がらずに消えない。
……あー、もう!私バカだなぁ。
こんな典型的な事に気付かないなんて____
苦痛で歪む栞の顔
口元に入れてた力が緩み
「……ふ、……ふふ、ふ」
小さく、吐息混じりに笑いだす
「…………意外です、あんなにも高い場所から落ちて、笑っていられるなんて、……計算範囲外です。然し、貴女にもう戦えるまでの体力は残っていない。今の落下で最低でも10本程骨が砕けたと見ましたが」
「…じゅ、っぽん……骨、が、砕け、た、ね……ぇ………」
ゆら……と、立ち上がる栞
かぷっ、と小さく血を吐き出す
覚束無い足で、立ち上がる
口元に付いた血を、袖で拭う
「……た、にんの力を、借りるのって、カッコ悪い、かなぁ…?でも、うん……矢っ張り、今骨が砕けた………状態で戦うの、はきび、しい、なぁ。
でも、やっと打開策、を見つけ、た。だから、姐さん…………絶対聞こえてると思う、けど……絶対、分かってる、と思うけど……………
私、を治癒、して………!」
言葉を言い終えた直後、栞の足元に曙色の魔法陣が展開する
柔らかい光が栞を覆う
「ッ……!?」
____此れは……、計算外の事態が………?!___
誰も、その場に居ない治癒能力持ちの者に、治癒をしてと言うとは思わない
只、あの少女がイレギュラー過ぎるだけである
誰も、予想だにしなかった状況が、今起こっている
光に覆われた栞の身体は、段々と回復されて、砕けた骨も元に戻る
光から解き放たれた栞の姿は、体勢を低くして、再戦闘をする構えだ
「……さ、此処からが本番!!」
音速で走り出す
*
*
*
同時刻、オオダチと斬鉄
一度引き、刀を鞘に納め、直立不動のまま目を閉じる斬鉄
フゥ……____と、一つ深呼吸を行う
「…む?戦闘中に目を閉じて深呼吸とは、お主も良い度胸しちょるのぉ。
何を仕出かすかは分かっちゃもんじゃぁないが、好機と見た。討ち取ったりぃ!!」
大剣を持ち、一気に接近
そして振り下ろ_____
「____ッ___!」
目をカッと見開き、刀に手を遣り、引き抜く
その動作は、あまりにも早くて見えない
「……ッが!?」
____何が、起こっ……!?____
刹那の内にして、オオダチの腹部に傷が入る
瞬時に身を引く
「ッ……つ…つ…………何が、起こったっちゅぅねん………」
大剣を持ちながら腹を抱え、自分の腹部に目を通した後に斬鉄の方を見る
____其処には、誰も居ない
「遅い」
声がするのは背後から
気付いた時にはもう遅い
刀は既に振られている
「…ッ!」
咄嗟に斬撃を受け流す
が、流しが甘かった様だ
一つ、傷が入る
更に一つ、傷が入る
____なん………此奴は……____
斬鉄は、大男のオオダチとは違って、身体は当たり前だがオオダチより小さい
故に、彼よりも小回りが利く
そして、速い
オオダチは彼の顔を一瞬だけ認識できたが
____その目には、只相手を殺す
それ以外の情は無かった
情の欠片は微塵も無い、冷徹な目をしていた
傷は与えられ続ける一方
そして
「……『斬』!」
容赦無しの深い斬撃が、オオダチの身体に入る
「ッ、ガァッ!!!」
____彼は一度(ひとたび)刀を抜けば、それはそれは恐ろしい戦闘鬼と化す
*
*
*
____ヴェレス山、洞窟内部
開けた洞窟に出る
あんな狭いところで巨大怪獣なんて、洞窟が崩れたら一溜りもない
「…ッ、よし、此処まで引きつけた……けど、大き過ぎ!」
「ッ…ぅ……」
「っあ、だ、大丈夫大丈夫!………私達なら、あれくらい倒せる。自信を持って!」
「う、うん………」
小さく返事をすると、抱えているリュックの口を開けて、多数の人形を出す
「……え」
小夏、少し唖然
からの、太腿についているポーチから何かを出す
暗器、苦無である
数は八
其れを一つ一つ、指の間々に挟む
「………………」
____………凄いやる気満々じゃないの…?____
別にそうではない
只、己の身を守るが為である
普通に言えば、戦闘は苦手な方(したくない、という意味で)
「ぼ、僕が先陣を…………。皆、行って……!《『苦無乱舞(Κουνέι Χορός – クネイ・ホロス)』》……!!!」
ククロの掛け声で、約20はある人形達が一斉に動き出す
そして、技宣言
苦無を投げ飛ばす
その苦無が、独りでに動き出し、更に加速
今度は腰に装備している四本の十字剣(ダガー)を、先程の苦無の様に投げ飛ばし、更に懐から二本の匕首(アイクチ)__鍔が無い短刀__を取り出し、両手に持つ
なんとまあ、暗器だらけである
計十四本
刹那、ククロが走り、ドラゴンに向かって走り出す
小夏、更に唖然
………って
「唖然してる場合じゃない私!……っフ………ゥ………。
………よし」
ドリームフォースを、奥底から解き放つ
人形の放つ特殊能力
放たれた苦無と十字剣
匕首を持った、アサシンと化したククロ
力を解放した小夏
「グォオオオオアアアアアアアアア!!!」
ドラゴンの咆哮
ドクロドラゴン____即ち、骨身のドラゴン
骨はとても頑丈である
そう易々と壊れない
____多大な衝撃を与えなければ
人形が水圧を与え、火を与え、振動を与え衝撃を与え……____
苦無が、十字剣が、キィンと甲高い音を上げながら少しずつ骨を削り____
ククロが、匕首で、攻撃を持ち前の反射神経と動体視力を生かして避け乍ら、切り刻み____
小夏が、ドリームフォースによって強化された身体で打撃を与えて____
骨身のドラゴンを崩していく
然し此のドラゴン、少し厄介な点がある
骨だけに、構成されて、組み立てられているだけに、壊しても、時間が経てば元に戻ってしまう
それに合わせて闘力3000万
「……ッ、ハ、ァッ!!」
____何よ此奴、全然倒れないじゃないの……!!____
「ッ、く、やぁっ…!!」
____ドクロドラゴン………お姉ちゃんが言ってた。
骨が組み立てられているだけだから、時間が経てば直ぐに戻っちゃう。
………………此の時、如何すれば良かったんだっけ____
斬り掛かり、避け、斬り掛かり、避け乍ら思想する
____『溶かせ、溶かして無くせば良い』
「………そうだ、溶かす、んだ…!え、と……一旦、引いて、ください…!!」
「え!?」
「僕に、考えが……」
「……分かった!!」
一度引く二人
「えと、リタ、来て…!!」
リタ、と名を呼ぶと、近付いてくる一体の人形
………………
「大きくない!?」
通称・イフリータ人形
イフリータ、とはイフリートの女版である
イフリートは、魔人、悪魔、精霊の一種であり、イスラム教では堕天使の立ち位置でもある巨人である
普段は縮小してリュックの中に入っている
「ハイ、ナンデショウ御主人様」
片言で話すイフリータ人形ことリタ
「リタ、って……硫酸の能力、持ってた、よね……?」
「エエ、御持チデス。アノドラゴン二、私ノ能力ヲ使ウノデスカ?」
「う、うん………」
「ワカリマシタ。然シ、此ノ侭デハ御主人様モ御連レノ方モ溶ケテシマイマス。………奴ヲ使ウノデスカ?私ノ気ハ余リ乗リマセンガ。
カト言ッテ、”フルオモアンチモン酸”ハ使用シマセンヨ」
(フルオモアンチモン酸は硫酸の一京倍の強度の酸で、何でも侵食してしまうほどの強酸なので危険、超危険)
「う、ん………溶けるのを防ぐには、其れしか無いから………リン、居るかな」
リン、其れもまた、人形の名である
リドワン人形____リドワンとはイスラム教の天国の番人とされる天使である
少女天使の人形で、彼女の持つ力と耐性は、原子と酸
耐性は完全にリタ耐性であり、力もまたリタ耐性な感じである。天使と堕天使、という仲である故か
原子___その能力は無類の可能性を秘めており、物事の総てを構想する強大な能力である
然し人形故、大きな力は使えない。精々、何かしら__何か物事を覆すような物以外とか__を作ったりできるだけである
と、遠くで戦っているリンが反応し、此方に寄って来る
因みに彼女のサイズは普通、小夏の膝下くらいの大きさである
「何でショー、御主人?話はチラリと聞きマシタが」
微妙に片言である
「え、と……リタが硫酸の能力でドクロドラゴンを溶かして………でも、僕達、まで被害が及ぶ、から………」
「ふムゥ?成ル程、承知しまシタ。ツマリ、奴の放つ能力かラ御主人達を守レバ良いのでスネ」
コクコクと頷くリン
「デハ、私ハ参リマス。御主人様、武器ト他ノ人形ノ回収ヲ」
「う、うん。……み、皆、集合…ッ!!」
と、ピタリと人形達が攻撃を止め、武器もまた動きが止まる
そしてわらわらと此方に寄って来る
「………人形、凄いね」
呆れたような、感心してるような、そんな感じで言う小夏
*
*
「……フゥ」
人形、のくせに一呼吸吐くリタ
目の前には巨大怪獣、ドクロドラゴン
「……ソウ言エバ、御主人様。ドノ程度溶カシ二ナレバ宜シイデショウカ?」
「うぇっ!……えっと、………」
____『溶かす、と言っても完全に溶かし切らなくていい。少しでも溶ければ、奴は再生不可になる。それに骨も脆くなっている。其処を、狙え』
…………………
「す、少し溶ければ……」
「………承知シマシタ。ソレデハ行キマス。リン、チャント守リナサイヨ」
「分かっテルヨ!っタク、《『アンノールガンニー・クリュスタッロス』》!!」
無機物の氷__即ち硝子である。其れを結界の様に、洞窟大広間を覆うように展開する
酸は、無機物を溶かせない
「デハ、溶ケナサイ。醜イ怪獣。《『スィミピクノメノ・シーコ・オクシィ』》!」
シュゥゥ、と何かがリタから放たれる
Συμπυκνωμένο θειικό οξύ____濃硫酸
それが気化している
周囲の岩は溶けず、その場に居るリタも能力の影響で溶けず、然しドラゴンだけが溶けていく
「………”スタマティステ”」
じゅわじゅわと、ドラゴンの身体が少し溶けかかっている中、そう言うと放出が止まる
「………此レデ、宜シイデスカ?」
くるりと、ククロ達が居る方を振り返る
「うん、あり、がとう…!」
「イエ。デハ、回収シマス。”アンナークティッシィ”」
今度は放った濃硫酸を、自らの体内に吸収する
____その場に危険物質は無くなった
「モウ、大丈夫デス。リン、解イテモ良イワヨ」
「ン、もうイイノ?じゃあ、”スタマティステ”、ット」
結界も無くなる
「奴ノ骨ハ溶ケテイマス。其レ二、朽チテキテイマス。今ガ好機デス」
「……うん、有難う…!………っえと、い、行きますッ………!!」
もう一度、匕首を両手に持ち、斬り掛かる
「ん、えと………リタちゃんにリンちゃんだっけ?有難う、此れで形勢逆転よ!!」
「御気ヲ付ケテ、行ッテラッシャイマセ」
ペコリと頭を下げ、見送る
小夏はドリームフォースの力を更に強める
そして、攻撃を与える
するとどうだろう
衝撃を与えただけで、あっさりと崩れるではないか
「ッ、フっ……!!」
____わっ、吃驚するくらい柔らかい……豆腐みたいに崩れる………____
強度は豆腐並
ボロ、ボロボロと壊れてゆくドクロドラゴン
「此れ、一気にやったら粉砕する、よね?」
「た、多分………」
「なら、ククロちゃん引いて!私がやる」
「っぇっ、あっ、はい………っ!」
後ろに下がるククロ
其れを見て、息を整える小夏
「豆腐なら、もう何も怖くない。崩れなさい!《『水霧・豪雨(フォグ・ダウンプーア)』》ッ!」
右手を上に掲げる
洞窟内に籠る湿気
其れ等が、目に見えるようになる
シュゥゥ……と集まり、もくもくと、霧__ならぬ雲が出来上がり
其処から、ポツリ、ポツリと雨が降る
其れは次第に強さを増す
そう、まるで豪雨
激しく、ドラゴンの身体に当たる
ザァ______
水を掛けた砂山の砂が、徐々に溶けて消えていく様に、ドラゴンが消えていく
……………………………………………
「やッ、タァ!!」
グッとガッツポーズをする小夏
「やったよ、ククロちゃん!!」
「……ぁ、…………!!」
ククロも底なしか、少し嬉しそうである
雨は次第に、止んでいく_________
*
*
*
「ッ、ラ、ァッ!!」
「フンッ!!」
殴り掛かる
然し受け流される
粘液型から悪魔型に変異したズジョウは、今迄とは非にならないくらいに強い
「……ッチ」
奴は如何やらバクの次に強い様である
舌打ちをしながら後ろに下がる絃入
だが嘗ての、粘液型の名残があるのか、徐々に攻撃力が弱まる模様
またダメージが一切効かない、というのも少し残っている。他よりダメージを受けにくい、とだけになっているが
「ックソ、奴に全然攻撃が通らねえ!!」
「直ぐに受け流される……ッ」
「当たってもダメージあまり通ってない様だな……」
「だが、微妙に攻撃力が落ちてきてないか?」
____バテてる……?否、そうには見えない。
だが、時間が経つに連れて攻撃力が落ちると見た。
………ダメージはあまり入ってないようだが____
____長期戦に持ち込めばいい
勘付いた棘葉
全員に指示を出す
「皆!奴は時間が経つに連れて攻撃力が下がっている。
辛いと思うが、長期戦に持ち込む!!」
「経つに連れて攻撃力低下……?
………ハッ、随分痛い弱点だな」
鼻で笑う影裏
意見を呑む
「………チ、今頃勘付いたか。気付かれたのなら仕様が無い、早期に御前等を倒す。
どうせ御前等の攻撃は、当たらないんだからな!!」
「当たらねぇ?誰がンな事決めた。其の確信はねェだろ?」
「………………少しでも、当たる確率はある。ええ、あります!!」
一度引いて、少し動く
その配置は、ズジョウを中心に、囲んでいる
「………?」
周りをジッと見ながら、顔を顰める
「行け、影裏!」
「チッ、時間の先延ばしか。
今度は、拷問だけじゃねェ。見えない檻に包まれな。出ることは出来ねぇぜ、悪夢よォ!!
《『オスクロアルバ』》ッ____
______ッオラァッ!!!」
オスクロアルバ____ダークドーンの強化版である
拷問に檻が付与
逃げられはしない
消えゆく意識の最中
暁が見えることは、永久に無い______
「ッ、………!!」
奴は、恐らく此れでは倒れない
強力な技を浴びさせても尚、倒れないであろう
只の時間の先延ばし
時が経つに連れて攻撃力は下がる
そしてダメージを受けないという面
ダメージは、物理攻撃の方である
物理攻撃が与えられないのなら、精神攻撃をすればいい
そういう意味で、拷問
見えない檻で、彼はどのような苦痛を受けるのか____
*
*
*
「…………」
ピタリと手を止める
「……?如何した主人、石は未だ見つかってねェぞ?」
「………否、探す手間は省けた。もう見つけた様で」
スクッと立ち上がって、何処かへ向かう
「……………戻るのか、っと」
着いて行く婪
歩きながら、右手を蟀谷に付けるメア
「……クレル、冷、其方の状況は如何?_______
…………ハァ?モンスターと遭遇?……まあ良いや、討伐次第に、他の連中も連れて、頂上に来て。
………うん、もう石を探す必要はない。ククロと小夏が見つけたみたい」
「……………………」
____何故、通信機も無しに、クレルと冷と、会話をすることが出来るんだ?____
此の前やった、遠隔操作通信とはまた違う。あれは、力を飛ばして行うモノ
だが此れは、明らかに、如何見ても意思疎通
………………一体、何の関係性があるのか
此処では、斬鉄と栞が、二人の悪夢の住人____オオダチとテイリと交戦中
石捜索を始めて、10分もしないでやってきた二人
余りに突然の事だった
特に、栞は苦戦を強いられている
「っ……ク…!」
「…反撃して来ないとは」
栞は反撃をしない
電子機器が無い此の空間、己の持つ能力、”リモコン”で『早送り』等を駆使しながら攻撃を行うテイリ
何故、反撃をしないのか
____反撃が、出来ないから
栞が『旋律の歌姫』と呼ばれるのは、あくまで能力での成果による話である
彼女自身、体術は得意としない
彼女の能力、”歌”は、音の波長を操ったり、歌__ならぬ曲、音を発生させて相手を錯乱させたり、能力を上手い具合に駆使して音速移動が出来たり、打撃等を与えるときに振動を一点に集中させたり、空気を振動させて広範囲攻撃を行うのだが
こんな開けた場所だと、その効果が薄くなる
音速移動も、体術が得意でなければ意味が無い
上には青々と、果てまで広がる大空
____……不味いなぁ……………____
だから、反撃が出来ないのである
「……貴女に反撃する意思は無いと見ました。然し私は貴女に攻撃をし続ける。
此れ等から求められる計算式、その解は、『貴女に勝ち目は無い』____ッ!!」
「………っむ、反撃する意思はあるわちゃんと!!」
むっ、とした顔で答える栞
反撃する意思が無いのではない
____今、考えているっての……!!___
然し眼前にはテイリがもう、居る
「ッ___ハァッ!!」
「ぅ…っ、ぐ…!!」
超至近距離での、蹴り、からの突き上げ
蹴りは至近距離からではないと出来ない、当り前である
栞の身体が宙を舞う
そして降下
ドッ……__
「あがっ…!!」
激しく地面に、身体が叩きつけられる
____あんな、いきなり近くに居られたら、ビビっちゃうよ、もう……………。
……………あれ……?
……………近く、に……?
……………そうか、至近距離だ。
……至近距離、即ち小さい空間でなら、波長も振動も、遠くまで広がらずに消えない。
……あー、もう!私バカだなぁ。
こんな典型的な事に気付かないなんて____
苦痛で歪む栞の顔
口元に入れてた力が緩み
「……ふ、……ふふ、ふ」
小さく、吐息混じりに笑いだす
「…………意外です、あんなにも高い場所から落ちて、笑っていられるなんて、……計算範囲外です。然し、貴女にもう戦えるまでの体力は残っていない。今の落下で最低でも10本程骨が砕けたと見ましたが」
「…じゅ、っぽん……骨、が、砕け、た、ね……ぇ………」
ゆら……と、立ち上がる栞
かぷっ、と小さく血を吐き出す
覚束無い足で、立ち上がる
口元に付いた血を、袖で拭う
「……た、にんの力を、借りるのって、カッコ悪い、かなぁ…?でも、うん……矢っ張り、今骨が砕けた………状態で戦うの、はきび、しい、なぁ。
でも、やっと打開策、を見つけ、た。だから、姐さん…………絶対聞こえてると思う、けど……絶対、分かってる、と思うけど……………
私、を治癒、して………!」
言葉を言い終えた直後、栞の足元に曙色の魔法陣が展開する
柔らかい光が栞を覆う
「ッ……!?」
____此れは……、計算外の事態が………?!___
誰も、その場に居ない治癒能力持ちの者に、治癒をしてと言うとは思わない
只、あの少女がイレギュラー過ぎるだけである
誰も、予想だにしなかった状況が、今起こっている
光に覆われた栞の身体は、段々と回復されて、砕けた骨も元に戻る
光から解き放たれた栞の姿は、体勢を低くして、再戦闘をする構えだ
「……さ、此処からが本番!!」
音速で走り出す
*
*
*
同時刻、オオダチと斬鉄
一度引き、刀を鞘に納め、直立不動のまま目を閉じる斬鉄
フゥ……____と、一つ深呼吸を行う
「…む?戦闘中に目を閉じて深呼吸とは、お主も良い度胸しちょるのぉ。
何を仕出かすかは分かっちゃもんじゃぁないが、好機と見た。討ち取ったりぃ!!」
大剣を持ち、一気に接近
そして振り下ろ_____
「____ッ___!」
目をカッと見開き、刀に手を遣り、引き抜く
その動作は、あまりにも早くて見えない
「……ッが!?」
____何が、起こっ……!?____
刹那の内にして、オオダチの腹部に傷が入る
瞬時に身を引く
「ッ……つ…つ…………何が、起こったっちゅぅねん………」
大剣を持ちながら腹を抱え、自分の腹部に目を通した後に斬鉄の方を見る
____其処には、誰も居ない
「遅い」
声がするのは背後から
気付いた時にはもう遅い
刀は既に振られている
「…ッ!」
咄嗟に斬撃を受け流す
が、流しが甘かった様だ
一つ、傷が入る
更に一つ、傷が入る
____なん………此奴は……____
斬鉄は、大男のオオダチとは違って、身体は当たり前だがオオダチより小さい
故に、彼よりも小回りが利く
そして、速い
オオダチは彼の顔を一瞬だけ認識できたが
____その目には、只相手を殺す
それ以外の情は無かった
情の欠片は微塵も無い、冷徹な目をしていた
傷は与えられ続ける一方
そして
「……『斬』!」
容赦無しの深い斬撃が、オオダチの身体に入る
「ッ、ガァッ!!!」
____彼は一度(ひとたび)刀を抜けば、それはそれは恐ろしい戦闘鬼と化す
*
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____ヴェレス山、洞窟内部
開けた洞窟に出る
あんな狭いところで巨大怪獣なんて、洞窟が崩れたら一溜りもない
「…ッ、よし、此処まで引きつけた……けど、大き過ぎ!」
「ッ…ぅ……」
「っあ、だ、大丈夫大丈夫!………私達なら、あれくらい倒せる。自信を持って!」
「う、うん………」
小さく返事をすると、抱えているリュックの口を開けて、多数の人形を出す
「……え」
小夏、少し唖然
からの、太腿についているポーチから何かを出す
暗器、苦無である
数は八
其れを一つ一つ、指の間々に挟む
「………………」
____………凄いやる気満々じゃないの…?____
別にそうではない
只、己の身を守るが為である
普通に言えば、戦闘は苦手な方(したくない、という意味で)
「ぼ、僕が先陣を…………。皆、行って……!《『苦無乱舞(Κουνέι Χορός – クネイ・ホロス)』》……!!!」
ククロの掛け声で、約20はある人形達が一斉に動き出す
そして、技宣言
苦無を投げ飛ばす
その苦無が、独りでに動き出し、更に加速
今度は腰に装備している四本の十字剣(ダガー)を、先程の苦無の様に投げ飛ばし、更に懐から二本の匕首(アイクチ)__鍔が無い短刀__を取り出し、両手に持つ
なんとまあ、暗器だらけである
計十四本
刹那、ククロが走り、ドラゴンに向かって走り出す
小夏、更に唖然
………って
「唖然してる場合じゃない私!……っフ………ゥ………。
………よし」
ドリームフォースを、奥底から解き放つ
人形の放つ特殊能力
放たれた苦無と十字剣
匕首を持った、アサシンと化したククロ
力を解放した小夏
「グォオオオオアアアアアアアアア!!!」
ドラゴンの咆哮
ドクロドラゴン____即ち、骨身のドラゴン
骨はとても頑丈である
そう易々と壊れない
____多大な衝撃を与えなければ
人形が水圧を与え、火を与え、振動を与え衝撃を与え……____
苦無が、十字剣が、キィンと甲高い音を上げながら少しずつ骨を削り____
ククロが、匕首で、攻撃を持ち前の反射神経と動体視力を生かして避け乍ら、切り刻み____
小夏が、ドリームフォースによって強化された身体で打撃を与えて____
骨身のドラゴンを崩していく
然し此のドラゴン、少し厄介な点がある
骨だけに、構成されて、組み立てられているだけに、壊しても、時間が経てば元に戻ってしまう
それに合わせて闘力3000万
「……ッ、ハ、ァッ!!」
____何よ此奴、全然倒れないじゃないの……!!____
「ッ、く、やぁっ…!!」
____ドクロドラゴン………お姉ちゃんが言ってた。
骨が組み立てられているだけだから、時間が経てば直ぐに戻っちゃう。
………………此の時、如何すれば良かったんだっけ____
斬り掛かり、避け、斬り掛かり、避け乍ら思想する
____『溶かせ、溶かして無くせば良い』
「………そうだ、溶かす、んだ…!え、と……一旦、引いて、ください…!!」
「え!?」
「僕に、考えが……」
「……分かった!!」
一度引く二人
「えと、リタ、来て…!!」
リタ、と名を呼ぶと、近付いてくる一体の人形
………………
「大きくない!?」
通称・イフリータ人形
イフリータ、とはイフリートの女版である
イフリートは、魔人、悪魔、精霊の一種であり、イスラム教では堕天使の立ち位置でもある巨人である
普段は縮小してリュックの中に入っている
「ハイ、ナンデショウ御主人様」
片言で話すイフリータ人形ことリタ
「リタ、って……硫酸の能力、持ってた、よね……?」
「エエ、御持チデス。アノドラゴン二、私ノ能力ヲ使ウノデスカ?」
「う、うん………」
「ワカリマシタ。然シ、此ノ侭デハ御主人様モ御連レノ方モ溶ケテシマイマス。………奴ヲ使ウノデスカ?私ノ気ハ余リ乗リマセンガ。
カト言ッテ、”フルオモアンチモン酸”ハ使用シマセンヨ」
(フルオモアンチモン酸は硫酸の一京倍の強度の酸で、何でも侵食してしまうほどの強酸なので危険、超危険)
「う、ん………溶けるのを防ぐには、其れしか無いから………リン、居るかな」
リン、其れもまた、人形の名である
リドワン人形____リドワンとはイスラム教の天国の番人とされる天使である
少女天使の人形で、彼女の持つ力と耐性は、原子と酸
耐性は完全にリタ耐性であり、力もまたリタ耐性な感じである。天使と堕天使、という仲である故か
原子___その能力は無類の可能性を秘めており、物事の総てを構想する強大な能力である
然し人形故、大きな力は使えない。精々、何かしら__何か物事を覆すような物以外とか__を作ったりできるだけである
と、遠くで戦っているリンが反応し、此方に寄って来る
因みに彼女のサイズは普通、小夏の膝下くらいの大きさである
「何でショー、御主人?話はチラリと聞きマシタが」
微妙に片言である
「え、と……リタが硫酸の能力でドクロドラゴンを溶かして………でも、僕達、まで被害が及ぶ、から………」
「ふムゥ?成ル程、承知しまシタ。ツマリ、奴の放つ能力かラ御主人達を守レバ良いのでスネ」
コクコクと頷くリン
「デハ、私ハ参リマス。御主人様、武器ト他ノ人形ノ回収ヲ」
「う、うん。……み、皆、集合…ッ!!」
と、ピタリと人形達が攻撃を止め、武器もまた動きが止まる
そしてわらわらと此方に寄って来る
「………人形、凄いね」
呆れたような、感心してるような、そんな感じで言う小夏
*
*
「……フゥ」
人形、のくせに一呼吸吐くリタ
目の前には巨大怪獣、ドクロドラゴン
「……ソウ言エバ、御主人様。ドノ程度溶カシ二ナレバ宜シイデショウカ?」
「うぇっ!……えっと、………」
____『溶かす、と言っても完全に溶かし切らなくていい。少しでも溶ければ、奴は再生不可になる。それに骨も脆くなっている。其処を、狙え』
…………………
「す、少し溶ければ……」
「………承知シマシタ。ソレデハ行キマス。リン、チャント守リナサイヨ」
「分かっテルヨ!っタク、《『アンノールガンニー・クリュスタッロス』》!!」
無機物の氷__即ち硝子である。其れを結界の様に、洞窟大広間を覆うように展開する
酸は、無機物を溶かせない
「デハ、溶ケナサイ。醜イ怪獣。《『スィミピクノメノ・シーコ・オクシィ』》!」
シュゥゥ、と何かがリタから放たれる
Συμπυκνωμένο θειικό οξύ____濃硫酸
それが気化している
周囲の岩は溶けず、その場に居るリタも能力の影響で溶けず、然しドラゴンだけが溶けていく
「………”スタマティステ”」
じゅわじゅわと、ドラゴンの身体が少し溶けかかっている中、そう言うと放出が止まる
「………此レデ、宜シイデスカ?」
くるりと、ククロ達が居る方を振り返る
「うん、あり、がとう…!」
「イエ。デハ、回収シマス。”アンナークティッシィ”」
今度は放った濃硫酸を、自らの体内に吸収する
____その場に危険物質は無くなった
「モウ、大丈夫デス。リン、解イテモ良イワヨ」
「ン、もうイイノ?じゃあ、”スタマティステ”、ット」
結界も無くなる
「奴ノ骨ハ溶ケテイマス。其レ二、朽チテキテイマス。今ガ好機デス」
「……うん、有難う…!………っえと、い、行きますッ………!!」
もう一度、匕首を両手に持ち、斬り掛かる
「ん、えと………リタちゃんにリンちゃんだっけ?有難う、此れで形勢逆転よ!!」
「御気ヲ付ケテ、行ッテラッシャイマセ」
ペコリと頭を下げ、見送る
小夏はドリームフォースの力を更に強める
そして、攻撃を与える
するとどうだろう
衝撃を与えただけで、あっさりと崩れるではないか
「ッ、フっ……!!」
____わっ、吃驚するくらい柔らかい……豆腐みたいに崩れる………____
強度は豆腐並
ボロ、ボロボロと壊れてゆくドクロドラゴン
「此れ、一気にやったら粉砕する、よね?」
「た、多分………」
「なら、ククロちゃん引いて!私がやる」
「っぇっ、あっ、はい………っ!」
後ろに下がるククロ
其れを見て、息を整える小夏
「豆腐なら、もう何も怖くない。崩れなさい!《『水霧・豪雨(フォグ・ダウンプーア)』》ッ!」
右手を上に掲げる
洞窟内に籠る湿気
其れ等が、目に見えるようになる
シュゥゥ……と集まり、もくもくと、霧__ならぬ雲が出来上がり
其処から、ポツリ、ポツリと雨が降る
其れは次第に強さを増す
そう、まるで豪雨
激しく、ドラゴンの身体に当たる
ザァ______
水を掛けた砂山の砂が、徐々に溶けて消えていく様に、ドラゴンが消えていく
……………………………………………
「やッ、タァ!!」
グッとガッツポーズをする小夏
「やったよ、ククロちゃん!!」
「……ぁ、…………!!」
ククロも底なしか、少し嬉しそうである
雨は次第に、止んでいく_________
*
*
*
「ッ、ラ、ァッ!!」
「フンッ!!」
殴り掛かる
然し受け流される
粘液型から悪魔型に変異したズジョウは、今迄とは非にならないくらいに強い
「……ッチ」
奴は如何やらバクの次に強い様である
舌打ちをしながら後ろに下がる絃入
だが嘗ての、粘液型の名残があるのか、徐々に攻撃力が弱まる模様
またダメージが一切効かない、というのも少し残っている。他よりダメージを受けにくい、とだけになっているが
「ックソ、奴に全然攻撃が通らねえ!!」
「直ぐに受け流される……ッ」
「当たってもダメージあまり通ってない様だな……」
「だが、微妙に攻撃力が落ちてきてないか?」
____バテてる……?否、そうには見えない。
だが、時間が経つに連れて攻撃力が落ちると見た。
………ダメージはあまり入ってないようだが____
____長期戦に持ち込めばいい
勘付いた棘葉
全員に指示を出す
「皆!奴は時間が経つに連れて攻撃力が下がっている。
辛いと思うが、長期戦に持ち込む!!」
「経つに連れて攻撃力低下……?
………ハッ、随分痛い弱点だな」
鼻で笑う影裏
意見を呑む
「………チ、今頃勘付いたか。気付かれたのなら仕様が無い、早期に御前等を倒す。
どうせ御前等の攻撃は、当たらないんだからな!!」
「当たらねぇ?誰がンな事決めた。其の確信はねェだろ?」
「………………少しでも、当たる確率はある。ええ、あります!!」
一度引いて、少し動く
その配置は、ズジョウを中心に、囲んでいる
「………?」
周りをジッと見ながら、顔を顰める
「行け、影裏!」
「チッ、時間の先延ばしか。
今度は、拷問だけじゃねェ。見えない檻に包まれな。出ることは出来ねぇぜ、悪夢よォ!!
《『オスクロアルバ』》ッ____
______ッオラァッ!!!」
オスクロアルバ____ダークドーンの強化版である
拷問に檻が付与
逃げられはしない
消えゆく意識の最中
暁が見えることは、永久に無い______
「ッ、………!!」
奴は、恐らく此れでは倒れない
強力な技を浴びさせても尚、倒れないであろう
只の時間の先延ばし
時が経つに連れて攻撃力は下がる
そしてダメージを受けないという面
ダメージは、物理攻撃の方である
物理攻撃が与えられないのなら、精神攻撃をすればいい
そういう意味で、拷問
見えない檻で、彼はどのような苦痛を受けるのか____
*
*
*
「…………」
ピタリと手を止める
「……?如何した主人、石は未だ見つかってねェぞ?」
「………否、探す手間は省けた。もう見つけた様で」
スクッと立ち上がって、何処かへ向かう
「……………戻るのか、っと」
着いて行く婪
歩きながら、右手を蟀谷に付けるメア
「……クレル、冷、其方の状況は如何?_______
…………ハァ?モンスターと遭遇?……まあ良いや、討伐次第に、他の連中も連れて、頂上に来て。
………うん、もう石を探す必要はない。ククロと小夏が見つけたみたい」
「……………………」
____何故、通信機も無しに、クレルと冷と、会話をすることが出来るんだ?____
此の前やった、遠隔操作通信とはまた違う。あれは、力を飛ばして行うモノ
だが此れは、明らかに、如何見ても意思疎通
………………一体、何の関係性があるのか
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筆者:Kd 読者:258 評価:0 分岐:1
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このストーリーの評価
Kd #0 - 17.10.06
すごく面白い☆
おおおお!!いい感じにできてます。