七つの夜 (岩波文庫) の感想

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タイトル七つの夜 (岩波文庫)
発売日販売日未定
製作者J.L.ボルヘス
販売元岩波書店
JANコード9784003279243
カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 外国のエッセー・随筆 » その他

購入者の感想

「神曲」、「悪夢」、「千一夜物語」、「仏教」、「詩について」、「カバラ」及び「盲目について」の7つの題目を収めた講演集。ボルヘスの代表作の1つ「エル・アレフ」が「神曲」に想を得た事からも窺える通り、最晩年のボルヘスによる自作(創作法)解説の趣きもあるが、より幅広い文学論・思惟を披歴している事は言うまでもない。ボルヘスは享受的読者を自称しており、何より書物(あるいは詩)を楽しんで読む事の重要性を訴えている辺りは共感が持てるし、時を越えた書物の普遍性を謳っている辺りは"むべなるかな"である。

非常に穏やかな語り口なのだが、ボルヘスの作品が持つ位相幾何学的構成の中での<迷宮>性が本書中でも散りばめられている。この<迷宮>を初めとして、<記憶>、<忘却>、<鏡>、<神(学)>、<幻想>、<輪廻>、<無限=時間の循環性>、<一瞬と永遠>といったお馴染みのモチーフが繰り返し語られるのは如何にもボルヘスらしい。各講演は独立しているが、それらが複雑に絡み合っている点も玄妙である。また、ボルヘスの該博な知識には何時も驚かされるが、本書でも中南米を越えた西欧・中東・東洋に渡るその知見が如何なく発揮されている。「千一夜物語」とチェスタトンとの関係等、誰が指摘し得るだろうか。マメ知識だが、「Alp(=アレフ?)」というドイツ語が「悪夢」を意味する事を本書で初めて知った。「エル・アレフ」は「悪夢」によって生まれた物語という意味なのだろうか ? 興味津々である。晩年、視力の半分を失ったボルヘスが「陰翳礼讃」(!)という名の詩集を書いている事も不思議な偶然である。

ボルヘスは本書を遺言書と称している。自作及び他の文学作品・思想の解題という意味合いもあるのだろうが、読者はやはり<迷宮>を彷徨う事になる。それでいて、「文学の本質に迫れた!」との充実感・高揚感を味わえる珠玉の講演集だと思った。

本書は博覧強記の作家ボルヘスの講演集である。

しかし、ボルヘス自身が「この本は悪くない」といったと伝えられるように、<語られた>本書も、<書かれた>彼の作品とおなじ質を保ち、おなじ世界にわれわれを導いてくれる。
すなわち、迷路のような世界、思いがけない光景、不思議な雰囲気のなかに。

タイトルどおり、七つの講演からなっているが、こんな調子だ。

ボルヘスが《あらゆる文学の頂点に立つ》と評する『神曲』を語る第一夜。
ダンテが地獄で、姦通によって罰されたパオロとフランチェスカから話を聞く有名なシーンを紹介したあと、ボルヘスはいう。
《ダンテが言わないことがあります》。それは、ダンテが《彼らの運命をうらやんでいること》である、と。なぜなら――、
《彼らは永遠に一緒であり、地獄を共にする。そしてダンテにすればこのことは、一種の天国であったにちがいありません》

第四夜の主題は「仏教」。
《「私は長い時間私の心を捜し求めましたが、見つけられませんでした」師は反論します。「お前が見つけられなかったのは、それが存在しないからだ」その瞬間、弟子は真理を理解します。自我が存在しないこと、すべては非現実であることを悟るのです。ここに禅宗のおよその本質があります》

第五夜「詩について」では――、
《私たちは、近くに女性がいるのを感じ取るようにあるいは山や海の入江を感じ取るように、詩を感じ取ります》
と前置きして、アルゼンチンのさる詩人のソネットを読み、解説する。
それは室内のランプや花を映す鏡をうたった詩だが、ボルヘスは《鏡は主役ではない》という。
それというのも、主役はソネットの最後の行――《触れ合う額と絡まる手が/映ることを望んでいる》詩人の思いなのだから。

最後の第七夜「盲目について」では、みずからの盲目の世界について、いろいろな体験を語ったあと――、
《近きものはすべて遠ざかる……日暮れどき、最も近くにあるものが、私たちの目から遠ざかっていく、目に見える世界が、おそらく永遠に、私の目から遠ざかっていったように》
といって話を閉じる。

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