世界はうつくしいと の感想
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参照データ
タイトル | 世界はうつくしいと |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 長田 弘 |
販売元 | みすず書房 |
JANコード | 9784622074663 |
カテゴリ | ジャンル別 » 文学・評論 » 詩歌 » 詩集 |
購入者の感想
長田弘さんの作品をたくさん読んできた。もっともかれの話法の成熟が結晶しているのを感じさせた初めのきざしは本書からではなかったか。
もちろん、出世作『深呼吸の必要』でも『記憶のつくり方』でも、あるいは『黙されたことば』や『世界は一冊の本』でも超人的で他に比類をみない語りはわが国の文学界でもまずこのひとをおいて他はないと思うのであるが、本作では『死者の贈りもの』『人はかつて樹だった』『人生の特別な一瞬』『人と樹と』において培いつつあった沈黙の話法とも言うべき系譜が、シンプルな短詩のなかに自由自在に息づいていて、ここにおいて長田弘の沈黙のボキャブラリーが完成され、次作『詩ふたつ』において完成したのだと見受ける。
作者にとって大切なものは所有ではなく、大いなるものでも不可解な深淵なるものでもない。ごくありきたりで、どんなテーブルのうえにも置いてある胡椒瓶のように、ありふれた日常にあるもの。そして、われわれが所有という行為を考えるうえでまったく思いもよらないものが大切で、うつくしいのだと長田は言う。
『日々の悦びをつくるのは、所有ではない。草。水。土。雨。日の光。猫。石。蛙。ユリ。空の青さ。道の遠く。何一つ、わたしのものはない。…素晴らしいものは、誰のものでもないものだ。…人はこちらの扉から入って、あちらの扉から出てゆく。…この世に在ることは、切ないのだ。…平和とは平凡きわまりない一日のことだ。』
作者にとって価値あるものとは、ただこの世界のありのまま、そのままのすがたのことだ。
静かな部屋、窓ひとつ。記憶と、使い慣れた机、そして好きな音楽があればいい。そんなところか。
第一回三好達治賞詩集。堂々の受賞。長田弘はまだまだ、これから。今後に注目したい。
もちろん、出世作『深呼吸の必要』でも『記憶のつくり方』でも、あるいは『黙されたことば』や『世界は一冊の本』でも超人的で他に比類をみない語りはわが国の文学界でもまずこのひとをおいて他はないと思うのであるが、本作では『死者の贈りもの』『人はかつて樹だった』『人生の特別な一瞬』『人と樹と』において培いつつあった沈黙の話法とも言うべき系譜が、シンプルな短詩のなかに自由自在に息づいていて、ここにおいて長田弘の沈黙のボキャブラリーが完成され、次作『詩ふたつ』において完成したのだと見受ける。
作者にとって大切なものは所有ではなく、大いなるものでも不可解な深淵なるものでもない。ごくありきたりで、どんなテーブルのうえにも置いてある胡椒瓶のように、ありふれた日常にあるもの。そして、われわれが所有という行為を考えるうえでまったく思いもよらないものが大切で、うつくしいのだと長田は言う。
『日々の悦びをつくるのは、所有ではない。草。水。土。雨。日の光。猫。石。蛙。ユリ。空の青さ。道の遠く。何一つ、わたしのものはない。…素晴らしいものは、誰のものでもないものだ。…人はこちらの扉から入って、あちらの扉から出てゆく。…この世に在ることは、切ないのだ。…平和とは平凡きわまりない一日のことだ。』
作者にとって価値あるものとは、ただこの世界のありのまま、そのままのすがたのことだ。
静かな部屋、窓ひとつ。記憶と、使い慣れた机、そして好きな音楽があればいい。そんなところか。
第一回三好達治賞詩集。堂々の受賞。長田弘はまだまだ、これから。今後に注目したい。