艶笑滑稽譚 第一輯――贖い能う罪 他 (岩波文庫 第1回) の感想

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タイトル艶笑滑稽譚 第一輯――贖い能う罪 他 (岩波文庫 第1回)
発売日販売日未定
製作者バルザック
販売元岩波書店
JANコード9784003750834
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » フランス文学

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人間・風俗研究の大家バルザックが中世・フランス社会の「秘め事・情事」をユーモラスにクッキン‼……彼の作品系列からすればほんのサイドメニューに過ぎないが、バルザック・フリークには決して見逃せない「隠れた名短編集」だろう。

第1集から第3集まで各10話ずつ、14〜16世紀の仏・トゥーレーヌ地方(バルザックの生誕地)とパリを舞台に王侯貴族や聖職者から田舎の下層階級に至るまで多種多彩な人物が登場。封建社会後期から末期にかけての史実を織り込みながらその裏側で風刺のきいた艶笑味豊かなコントが奔放に展開される。

短編とはいえ著者一流の鋭い人間観察と人物解析から造形される生気あふれるキャラクターが躍動‼ バルザックは妖しい閨房(けいぼう)の秘事やなまめかしい会話などストレートに描写できない艶事(つやごと)万端、遠回しながらすぐそれとわかる軽妙な語り口で表現しているのは痛快極まりない。

そして、本作のメインテーマともいえるのが、当時の教会の腐敗、聖職者の堕落ぶりだろう。〈聖なる世界〉もひと皮むけば「愛欲」「色欲」まみれの〈俗社会〉……虚実取り混ぜて語られる「珍談奇談」は辛辣な皮肉と冷笑をたっぷりまぶし、さらにピリッと薬味のきいた警句と教訓を添え、500年以上前の古風な素材も現代風に楽しく味わえる。

この第1集では終盤の第8話「剣に誓いし友」とラスト第10話「咄嗟の気転」が名ストーリーテリング。前者は新婚早々、新妻を残し単身遠隔地に赴くことになった騎士とその友人の物語で、フランス滑稽話では定番の「寝取られ男(コキュ)」ものと思いきや、意外な結末が‼……読み終えて「剣に誓いし友」という厳粛なタイトルが改めて心に重くのしかかる。また、後者「咄嗟の気転」は間男に失敗し、身の破滅を招く町職人の〈笑劇〉的傑作だ。

バルザックは本書の執筆にあたり〈心の師〉とする16世紀の作家F・ラブレーの語彙、語法や作品の構成・展開に大きな影響を受けたとされ、原文は古格な擬古文であるという。その風雪を経たクラシカルな文体の機微・風韻を、まるでふるき良き時代のモノクロ映画を見るよう“紙上スクリーン”にみごと再現した訳者・故石井晴一氏(青山学院大名誉教授)の最晩年の労訳を心からねぎらうものである。

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