もっと知りたい藤田嗣治(つぐはる)―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション) の感想

122 人が閲覧しました

大好きな「もっと知りたい」シリーズに藤田嗣治が加わりました。これまで沢山の画家を取り上げてきた同シリーズですから遅いくらいですが、満を持しての登場ともいえるでしょう。生涯を網羅し、代表作を掲載していました。

監修と執筆が、藤田嗣治で博士論文を書いた林洋子氏（京都造形芸術大学准教授）で、もう一人の著者がポーラ美術館学芸員の内呂博之氏です。お2人ともこれまで藤田嗣治に関する著作のある研究者ですし、テレビでも美術解説をされています。本書の内容の確かさはそれで理解できるでしょう。

作品のジャンルも多岐にわたり、パリ、中南米、日本、ニューヨーク、パリと居住を代えながら多くの作品を残した藤田嗣治です。深く知るには詳しい解説が必要です。その時の心情理解も必要になる画家ですので、優れた研究者の著述は必須でした。知っているつもりのフジタの歩みを再確認させていただきました。

近年「藤田嗣治」展を鑑賞できる機会が多くなったのは幸いです。エコール・ド・パリの寵児となった彼の生涯を深く知りたいと思う方は多いでしょうし、ファンも大勢いるはずですから。
藤田は世界で一番有名な日本人画家でしょう。「乳白色の肌」と評される作風を確立したパリ時代も本書で丁寧に記されています。戦後フランスに帰化し、レオナール・フジタになった後も、豊富な作品で紹介していました。

22pに見開きで紹介された「ジュイ布のある裸婦(寝室の裸婦キキ)」(パリ市立近代美術館蔵)にひかれました。その解説「『画中画』として布をアレンジ」で書かれているように、ジュイ布は彼がフランスでの収集したものです。同ページに掲載してある名品「友情」もジュイ布を描き、人物を浮かび上がらせる効果があります。このジュイ布は藤田の愛用品です。素敵なコレクションでした。

「藤田の油彩画技法(24p)」では、長い間秘法とされてきた「乳白色」の秘密に迫っています。乳白色の元として、タルク(ベビーパウダーの『シッカロール』に含まれる)という物質を使用していたことを土門拳の写真から実証しています。見事な解明でした。その意味でアトリエでのフジタの姿の写真は貴重でしょう。