ヴィットリア・コロンナのための素描 の感想

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この詩集で語られるミケランジェロは、まるでT.S.エリオットの『荒地』の預言者ティレシアスのように、全体の詩篇を統御する冥界への案内人のような役割を担わされている。著者が長らく研究と翻訳に精魂傾けたエズラ・パウンドの畢生の大作『キャントーズ』を「意識の叙事詩」と呼ぶなら、この詩集もまさしくその系譜に連なるものである。パウンドがイマジズム運動で実践したのは、詩の表現の〈明晰で〉〈曖昧さを排した〉〈宝石の輝きに似た〉クリアーカットなイメージというものの探求であった。著者は、日本の現代詩にいま一番欠けている、イマジズム詩が追い求めたような「硬い抒情」を、この詩集で達成しようとしたことは間違いなかろう。そして著者が、不毛の荒地と化した日本の現代詩にもたらしたこの豊穣の果実に、多くの人が気づくには時間を要するかもしれない。明らかに、この詩集の希少価値の存在に気づく犀利な批評家の出現が、今後の日本の現代詩の行方を大きく変えるはずである。一読後、この画期的な詩集の誕生に興奮の震えが止まらなかった。