資本主義から市民主義へ (ちくま学芸文庫) の感想

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タイトル資本主義から市民主義へ (ちくま学芸文庫)
発売日販売日未定
製作者岩井 克人
販売元筑摩書房
JANコード9784480096197
カテゴリジャンル別 » ビジネス・経済 » 経済学・経済事情 » 経済学

購入者の感想

貨幣論などで著名な経済学者岩井氏による本です。本とは言っても全編通して対談形式になっています。雑ぱくな感想について。まず対談形式であればさぞ読みやすいだろうと思って読み始めましたが、内容がかなり高度、というか空中戦すぎて理解しながら読み進めるのにそこそこ時間がかかりました。また主役が岩井氏で「聞き手=三浦雅士」となっていますが、三浦氏は「聞き手」の領域を大幅に超えて「話し手」にもなっていました。これは良かったと思う箇所もありましたが、「しゃべりすぎでは?」と感じる箇所も多々ありました。個人的に岩井氏の主張にもっと誌面を割いてもらいたかったので、聞き手は聞き手らしくもっとシンプルに切り返してもらった方がありがたかったです。

序盤は読むのに苦戦しましたが、面白いもので、中盤くらいからはだいぶペースアップしました。まず岩井氏の主張が一貫していることで、「門前の小僧習わぬ経を読む」ではありませんが、だいぶ私(門前の小僧)の頭の中にも入っていきました。
岩井氏の主張は何かといえば、言語・法・貨幣は自己循環的に成立していること。つまりこれらによって社会が存在しているのですが、その存在基盤とも言えるこの3つは実は根拠が無く不安定なものだということです。たとえば貨幣であれば、貨幣需要がものすごく高まるとデフレ(恐慌)になり、貨幣需要がものすごく低くなるとハイパーインフレーションになったりする。そしてこの不安定な資本主義を補完しているのが、市民社会であって、それはカントの定言命題としての普遍的な倫理をベースにしたものである、という感じです。著者の主張が正しいかどうかは私のレベルではまったくわかりませんが、とても面白く感じました。そういう風に物事を見ることも出来るのか、という発見があったという感じです。繰り返しますが、「空中戦」の議論が多くて最初は良くわからないかもしれませんが、だんだん著者の言いたいことがわかってきますので、我慢して最後まで読めば多くの気づきがあるかと思いました。

 題名から想像された内容とは異なり、カント、ヘーゲル、マルクス、パース等の哲学者を縦横に読みこなしながら、「法・貨幣・言語は、それらを皆が信じているから存在する建設的虚構」と看破し、「カント由来の基本的人権がすべてを支える」と提言している、目から鱗の明察本でした。ただし、3年かけた新書社の雑誌連載が元なので、各章の内容に重複が多く、説明の深さが足りない(リファレンスも付いてない)ところがやや残念です。

小生の印象に残った点は以下です。
・人間は名付けられて「法人」になる。主体/形相としての「ヒト」、お金で買える「モノ」の両面を持つ。
・動物と人間が異なるのは、1) "メタ"が記述できる"言語"、2) 遊び/投機の自由がある"貨幣"、3) 力による殺し合いから共存への"法"、を持ったこと。
・これらの意味付けを求めて、いろいろな(神学論争の唯名論と実在論に対応する)宗教/学説が現れたが、それは不安に基づく不完全なもの。結局、3つとも「皆がそれらを信じているから」機能しているに過ぎない。
・よって、ハイパーインフレやファシズム台頭の怖れはいつもある。
・個人としての精神病(鬱病/統合失調症)は、ちょうどそれぞれ不況/ハイパーインフレに対応する。
・言語は、他の2つの基盤でもある。
・クレタ人のパラドックス(クレタ人が言った「クレタ人は皆嘘つきだ」の真偽が決定できないこと)は、"ゲーデルの不完全性定理"の単純例。これは「自己言及できるメタ言語があると、数学でも非決定の事項ができる」という真理。このように、ユークリッドやラッセルの論理積立型の定理体系とは異なり、飛び地のようにこういう自己循環系が見つかり、新たな進化が起こりうる。言語・貨幣・法も同様にできた。一度できると不可逆。これを米国の哲学者:パースは「偶然」と呼んだ。
・「ロミオとジュリエット」は、二人の犠牲によって、両家の殺し合いが、法に基づく共存に変わった。本人たちが死んでも遺るのが、形相(名)。
・工場で働かせれば価値が得られた時代に、労働価値が絶対だと勘違いされた。この勘違いで、ソ連の国家資本主義は行き詰まった。

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