労働経済学入門 (日経文庫―経済学入門シリーズ) の感想

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参照データ

タイトル労働経済学入門 (日経文庫―経済学入門シリーズ)
発売日販売日未定
製作者大竹 文雄
販売元日本経済新聞社
JANコード9784532107628
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 労働問題

購入者の感想

理論と実証の絶妙なバランスが取れた本である。著者の大竹文雄さん(阪大教授)は本書の他にも「日本の不平等」などといった実証的な新書を書いているが、本書は著者の優れた実証分析と問題意識、そして理論的説明とその欠点などを余すところなく書ききっている。読み進めていくうちに、労働経済学の視点や枠組を得ることができ、日本の個別具体的な労働問題の概要が鮮やかになる。もちろん、紙片の関係で留保や限定的な主張が散見されたり、現在の問題になっている非正規雇用問題への分析がなかったりしたが、これ以上の主張の展開はリーディングリストなどにある本や論文などを参考にして、そして本書で説明された枠組に依拠しながら、分析することが望まれる。

本書で最も気になった点が長期雇用制度の合理性である。最近の日本の労働市場では、「長期雇用制度の崩落」がささやかれている一方で、著者はその合理性の一つとして企業特殊熟練の育成を挙げている。評者は、この企業特殊熟練の具体的内容次第によっては、長期雇用制度の展望が変わりつつあると考える。なぜなら、製品のモジュール化や人材のアウトソーシング化が進んでいく中で、日本の企業が日本の労働市場から労働者を雇用し、今までの長期雇用雇用システムを維持していくにあたって、その企業特殊熟練が安い製品や人材を上回る付加価値が創出できるかが大きな要因であるからだ。例えば、その内容が社内の中でのみ通用するコミュニケーション力やコネクションであるならばその優位性は失われていく一方で、暗黙知などといったOJTや現場でしか伝えられない価値を持ったものであるならば、ますます長期雇用制度のプレゼンスは大きくなるであろう。そのように考えるならば、日本が海外競争力を高めるために雇用の流動性を高めると言った主張に対して、「流動性が高くなって、汎用性が高い熟練が通用する労働市場にシフトするならば、日本企業が日本で雇用しなくなる。なぜなら、海外の現地で雇用し、生産すれば良いからである。」と批判できるかもしれない。

いずれにしても、企業特殊熟練といった非常に多義的で定義しにくい概念を使って、一般的な分析を行うことは難しいので、さらなく個別具体的な議論が望まれるであろう。そういう意味でも、本書は労働経済学を学ぶ上での第一歩となるべき本である。

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