歌う国民―唱歌、校歌、うたごえ (中公新書) の感想
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参照データ
タイトル | 歌う国民―唱歌、校歌、うたごえ (中公新書) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 渡辺 裕 |
販売元 | 中央公論新社 |
JANコード | 9784121020758 |
カテゴリ | エンターテイメント » 音楽 » J-POP・日本の音楽 » 邦楽・民謡 |
購入者の感想
面白い作品です。アプローチはバランスが取れたものです。大きなテーマは、「国民音楽」というイデオロギーの興隆です。それは保守でもなければ、西欧音楽の模倣でもない、折衷による創生なのです。この流れが、克明にたどられます。変わるもの、換わらないものの抽出、そして時代の政治社会的な文脈が丹念に押さえられ、この日本の近代のドラマが音楽というフィールドで描かれます。東京音楽学校、唱歌。卒業式の歌、校歌、県歌、歌声運動などが従来の一元的な国民設計の角度(ナショナリズムや社会主義リアリズムの亜種)からではなく、多面的な上下、水平、新旧の力学の中で、その実態、意図と意図しない結果を含めて、はらんでいたアポリアが丹念に描かれていきます。おそらくこの国民音楽という流れは、敗戦で断絶することはなく、70年の万博のころまで続いていたことが示唆されます。「しかし、根っこの部分で何かが確実に変わりました。」というのはいいえて妙です。さて、今度は、どういうイデオロギーが、新しい現在の文脈の中で、その変容した姿を見せるのか?