たのしいプロパガンダ (イースト新書Q) の感想

本書の趣旨はタイトルだけではやや抽象的で解りにくいように思う。本書に言う『プロパガンダ』について、著者は「はじめに」において「政治的な意図に基づき、相手の思考や行動に（しばしば相手の意向を尊重せずして）影響を与えようとする組織的な宣伝活動」と定義付けしている。かかる政治的目的を内在する組織的・強引な『プロパガンダ』について、本書は戦前日本及び海外（中国・北朝鮮・旧ソ連・旧ドイツ・ＩＳなど）の歴史・本質性ないし方法・手段に『たのしい』外観（形態）としての「娯楽」または「エンタメ」性の具体例を検証しつつ、その誘導性や危険性などを読み解いていくものである。全体的に実証的・分析的で、著者のスタンスとしては（幾つか気になる筆致は後述するが）比較的中立と観て良いように思える。通読しての私見では、前記のような定義付けにおける『プロパガンダ』の基本的理解において、各トピックについて一貫した検証・批判的視点（娯楽・エンタメ性に隠れた本来的政治的意図の浸透の危険性）はユニークで解りやすいが、第５章における現在日本の検証では、その政治目的性は別論としても、右派・左派の単純な２律対立軸に分けかつ論調も「右傾エンタメ性」（政治家や自衛隊広報へ間接的批判）に偏った印象は否めない。例えば“左傾エンタメ性”ーー今年６月頃から活発化した安保法制に対する左派系のネガティブ・キャンペーンや英語表記の団体名とラップ音楽に依るデモ活動ーーなどは言及がない。

個人的に興味を惹いたのは、存外早い時期の旧ソ連に観える（「娯楽性」ある）『プロパガンダ』である（60~78頁）。「娯楽性」ないし「エンタメ性」の方法として、既に「アニメ」、「ビジュアル・メディア」（ポスター・写真誌）、音楽など旧ソ連の「楽しいプロパガンダ」にはトロツキーに依る、「無理強い」でなく「娯楽を集団教育の武器」とせよと言う旨の発言が注目される（61~62頁）。ここには「プロパガンダ」を「集団教育」と観ていることに注意すべきだろう。より現実に即して言うなら、革命的“洗