中村元選集 決定版 第1巻 東洋人の思惟方法 / インド人の思惟方法 の感想

それぞれの言語の論理、文法を分析して、そこからその言葉を使う民族の思惟方法を論じるのが本書である。
言葉から民族の思惟方法を論じるなどあまりにギャップがある。むしろ、習慣といった現象からアプローチすべきではないか。・・・そんな考えは本書を読めば吹き飛んでしまうだろう。
莫大な知識、精密な分析。著者でなければ、無理だろう。こんな天才が今、いるのだろうか？

本書は、太平洋戦争を意識していると思われる。かつて「東洋」という言葉がよくつかわれたようだが、同化という危険な力を含んでいた。
中村は、本書を通じて、「東洋人一般、そうしてそれのみに通じるところの思惟方法の特徴なるものは存在しない」と結論した。

中村は仏教思想も研究していた、というより、実践していたのだろう。
精密な学問を通じて、世界の平和を祈っていたのかもしれない。

ちなみに、本書は、和辻哲郎の「風土」の解説についていた推奨本だったが、なぜ本書が勧められているかがわかったような気がする。
和辻は風景から、次の風景へと移動しながら考える風だが、本書は、思惟にとどまり、徹底的に分析する。顕微鏡でしかみえない埃さえも徹底的に追求するかのようである。
従って、和辻からは雰囲気しか伝わってこないが、本書からは真実の香りが伝わってくる。
全巻を合わせると分量も多く、内容は難しいが、考え抜く、という言葉を使うには、本書を読んでからがいいだろう。
しかし、価値あるものを感じるには、労力がいる。誰か優秀な天才が、多くの人にこの価値を伝えてくれないだろうか。