カラー版 ベアー コノーズ パラディーソ 神経科学―脳の探求 の感想

これまで日本語の神経科学のテキストというと，説明が簡略すぎたり，特定分野のみをあつかっていたり，統一性に欠けたり，カラー図版がほとんどなかったり，臨床医学書であったり，という具合で，サイエンスとして神経科学を学びたい入門者向けのものがほとんどなかったような気がしていた．そこにこの翻訳書の出現である．手にして読んでみて，私は実にうれしい気分になっている．
本書は，大学１年生程度の知識があれば十分なくらいの丁寧な記述で，カラー図版も豊富，カバーしている範囲もひととおり網羅されている．臨床医学生向けではないかもしれないが，神経科学の理解が必要な細胞生物学・認知神経科学・実験心理学・臨床心理学・行動薬理学などの分野を学ぶものには，これ一冊読んでおけば神経生理学の基礎知識は十分と言えるように思う．
さらに，著名な学者へのインタビューのコラムは，研究へのモチベーションを高めてくれる．欧文索引があることも，英語の専門用語に対する苦労を軽減してくれる．推薦図書や引用論文ももちろん掲載されている．
値段がやや高いのはつらいところだが，内容を考えれば決して損はない．ページ数に圧倒されるかもしれないが，丁寧な解説ゆえのことなので，予想外にはやく読み進めることができるだろう．
神経科学の和書の教科書・参考書として，初学者に大いに推薦できると思う．