ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書) の感想

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タイトルヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書)
発売日販売日未定
製作者高田 博行
販売元中央公論新社
JANコード9784121022721
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 政治入門

購入者の感想

本書の題名を見てヒトラー演説の中味の解説書かと思ったがそうではなかった。
本書はビッグデータその他の手に入る限りの資料を分析してヒトラー演説の徹底解剖を試みている。
著者は、その「あとがき」で述べているように、学習院大学ドイツ文学科に着任後、コンピュータソフトを用いて
「ヒトラー演説150万語データ」を完成し、それを元にヒトラーがどの時代にどのような単語やフレーズを多用していたかを
徹底分析して見せてくれる。
しかし、それだけでは単なる統計データの提供に過ぎない。
著者は巻末に多数のドイツ語や日本語の参考文献を挙げているが、これらの文献から興味深いヒトラーの演説に対する勉強ぶりを分析して
見せてくれている。
マイクロフォンが発明される以前は、ヒトラーの演説はビヤホールや公共の広場で行われたが
いかにしたら遠くの席まで自分の声が届くかオペラ歌手を呼んで徹底的に勉強している。
また演説中の身振り手振りなどは舞台俳優から指導を受けていることがわかる。

マイクロフォンが発明されトーキー映画が出来ると、ヒトラーはそれらを自己の演説をラジオ放送を通じたりニュース映画を見るように
国民に強制したりして宣伝にこれ務めている。もちろん、これらのアイデアはゲッペルス宣伝相に追うところが大きい。
トラックによるキャラバンを組んで演説会、ニュース映画会などを開催し、こんにちで言えばマスメディアを利用して
自己の宣伝にこれ務めている。

しかし、ヒトラーが演説に熱心だったのは総統として政権トップに上り詰めるまで
あるいは第二次世界大戦の戦果が誇れる時代までであった。
連合国との戦況が段々不利になるにつれ、ヒトラーはラジオを通じて国民に演説をすることを避けるようになってきた。
またニュース映画でも自己の声のは消去するように命じて映像のみを流すようになった。
映画に映るヒトラーの姿に疲れが目立つようになった。
私の思うところ、鬱になっていたのではないか。
そしていきつく先は1945年4月30日。
ヒトラーは地下塹壕で最後を迎えることになるのである。

 レビュアーのそぞろ歩きさんも書いていますが、この本は確かに凄いです。
「ヒトラーの演説」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは1933年の首相就任演説における、よく通る声で絶叫し、派手な手振りで喝采を受ける姿ではないでしょうか。

 ヒトラーは『我が闘争』の中で大衆演説とプロパガンダ、暴力の活用について自ら「理論」を示しました。そして演説家ヒトラー、組織者ゲッベルス、暴力者レーム(後にゲーリング)はこの理論を「実践」し、ドイツの政権を奪取しました。

 著者はヒトラーの演説をデータベース化して、ヒトラーが行った「実践」を「論証」あるいは「証明」しています。
圧巻なのは、ヒトラーの演説をテキストにして、それが優れた構成、巧みな文法、様々な修辞法を活用した『素晴らしい大衆向け演説』であることを「証明」した箇所です。
著者がナチス史家ではなく、ドイツ言語学者だったからこそできあがった労作です。

 しかし政権奪取後演説を核としたプロパガンダは問題を露呈していきます。ゲッベルスの宣伝省がラジオとニュースを支配した結果、国民はプロパガンダに慣らされ、35年から38年にかけて、ヒトラーの演説は「恫喝外交」の手段となります。しかし、40年の対仏戦勝利を最後にヒトラー演説の回数は激減し、SS保安本部からは密告網を通じてゲッベルスのもとに悲観的な情報が寄せられます。
 41年、副総統のヘスが単身イギリスへ。戦時下のドイツは政府と軍と親衛隊が支配しており、大衆政治活動としてのナチ党(ヘスはそのナンバー2)は存在意義を失っていました。演説(党活動)は不要な時代になっていました。
 プロパガンダの責任者としてゲッベルスはヒトラーに奮起を促しますが、すでにパーキンソン病に冒されていたヒトラーにその魔力はありませんでした。

本書のエピローグは全体と最後を適切に要約し、その上で現在の大衆(私たち)に向かって警鐘を慣らしています。
ヒトラー・ナチスに興味を持つ方にはもちろんオススメですが、政治的スピーチや大衆煽動術に関心のある方にもオススメです。

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