脳のなかの幽霊 (角川文庫) の感想

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参照データ

タイトル脳のなかの幽霊 (角川文庫)
発売日2011-03-25
製作者V・S・ラマチャンドラン
販売元角川書店(角川グループパブリッシング)
JANコード9784042982111
カテゴリ » ジャンル別 » 人文・思想 » 心理学

購入者の感想

 脳の不思議に迫る名著。名著とは聞いていたが、本当に名著だった! こんな面白い本が10年以上前に出ていて、しかも面白い本だと皆が言っていたのに、10年間も自分は後回しにしていたなんて!

 脳卒中で倒れた患者は、ときに驚くほど奇妙な神経疾患を示すことがある。脳損傷患者の示す様々な症例を手がかりに、脳の働きの謎について解き明かしていく。

 500ページ近いボリュームを誇る本である。取り上げられているトピックの幅も広く、幻肢、盲視、シャルル・ボネシンドローム・錯視、半側空間無視・鏡失認、病態失認・自己身体否認・防衛機制、カプグラ妄想、側頭葉てんかん・サヴァンシンドローム、笑い、心身医学、クオリア・自己、等々のトピックが俎上に載せられていく。

 「もっと早く読めば良かった」と少し後悔している。2000年代前半に読んだ脳科学・認知科学・心理学系の本の多くで、本書が引用されていた。ただ、これらの本では、本書で紹介されているような奇妙な症状を挙げ、これらの症状の不可解さ、脳の働きの謎を強調することに終始しているキライがあった。そのため、たびたび引用されている評判の良い本であることには気づいていたのだが、本書に手を伸ばすことを後回しにしてきたのだ。ところが、本書ではちゃんと謎解きまでされているのである。何だか騙されたような気分だ。

 本書を読み続けていくと、我々の知覚世界や身体イメージだけでなく、空間や時間の表象、「自己」や「現実感」すら、脳と神経系の複雑な処理によって「作られたもの」であることに気づいてくる。久々に「あっ、そうか、そうだったのか!」と目を啓かれる想いがした。

 本当に心の底から面白いと思える本と出会えることは稀だ。続編の『脳のなかの幽霊、ふたたび』も是非読んでみたい。

 著者のラマチャンドランは、幻肢痛(事故等で切断した手足が、まだあるかのように感じる現象で、なぜか激痛を伴うことがある)の画期的な治療方法を発見したことでも知られる脳神経学者である。長きにわたり有効な治療方法がみつからなかった幻肢痛を、科学的な推論に基づく簡単な実験で治療したばかりか、同時に、ニューロンの異常な可塑性も発見している。さらには先天的に腕のない人に幻肢が起きた症例も紹介しており、そのメカニズムに関する仮説は、ただ驚くばかりである。そのため、幻肢に関する章だけでも本書を読む価値があるだろう。

 しかし、本書が素晴らしい理由はさらにある。

 まず、なんといっても脳の局所的損傷や疾患によって生じる、極めて特異な症例の数々である。登場する症例は、いずれも特筆に値するが、たとえば、半側空間無視という症状を示す患者は、知性は普通なのに、世界から左側がすっぽり欠落したかのごとく振舞い、メイクも顔半分しかしないし、食事も視野の右側しか食べないなど、とても凄いことになる。この症状を示す患者によって描かれた「半分しかない花の絵」は衝撃的である。
 
 本書には、そのような興味深い症例がいくつも出てくるのだからたまらない。

 また、序盤で「科学者であればみな、知的好奇心と健全な懐疑精神が必要だということを知っている」と述べているが、それが口だけではないところも注目に値する。

 ラマチャンドランが数々の症例から脳機能について仮説を立て、検証に結びつけていく過程は圧倒的に面白く、知的好奇心を刺激する。しかも、その姿勢は、自身が誤っている可能性に留意しながらも、大胆に謎の解明を試みる、生きた科学の模範的な実例にさえなっているのだ。

 さらにいえば、単なる読み物としても圧倒的に面白いため、本書は、私にとって『フェルマーの最終定理』(サイモン・シン著)と並ぶ至高の一冊なのである。

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