フランス文学者の誕生: マラルメへの旅 (単行本) の感想
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参照データ
タイトル | フランス文学者の誕生: マラルメへの旅 (単行本) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 鈴木 道彦 |
販売元 | 筑摩書房 |
JANコード | 9784480836496 |
カテゴリ | 文学・評論 » 評論・文学研究 » 外国文学研究 » フランス文学 |
購入者の感想
この本はいずれ豊島区の文化財として一般公開されるフランス文学者の鈴木信太郎邸を訪れる人々のために、同じくフランス文学者の子息・鈴木道彦氏が著した父の伝記であり、自らのルーツを探る物語である。信太郎は地主階級の総領息子として生まれた。土地から受け取る米と、それを商う神田の米問屋からの収益を好きなだけ趣味のフランス文学につぎ込むことができた境遇である。フランス留学中も連日の演劇鑑賞や稀覯本を潤沢な資金で買いあさる信太郎の豪勢な生活が描かれている。
著者の道彦氏は言わずと知れたサルトルやプルースト研究の第一人者であり、『失われた時を求めて』個人全訳で有名だ。最近のプルースト研究があまりに専門的な末梢部分の研究にあり、研究者の文学的感興とは程遠いところで行われている矮小化した傾向を道彦氏が嘆いているのをどこかで読んだ記憶がある。道彦氏の研究態度は「研究者の実存的関心とまったく絶縁したところで行われる文学研究が自分にできるとは到底思えない」と本書で明かしている。父信太郎はそれとは真逆であり、マラルメの詩句に対して句読点のひとつまであらゆる版本を検討し明らかにするのを使命としている。「コチコチの実証主義」で、良くも悪くも東大仏文の伝統は信太郎から生まれている、という意見だ。そのアカデミックな伝統が世のフランス文学の研究者を席巻している。
著者の道彦氏は言わずと知れたサルトルやプルースト研究の第一人者であり、『失われた時を求めて』個人全訳で有名だ。最近のプルースト研究があまりに専門的な末梢部分の研究にあり、研究者の文学的感興とは程遠いところで行われている矮小化した傾向を道彦氏が嘆いているのをどこかで読んだ記憶がある。道彦氏の研究態度は「研究者の実存的関心とまったく絶縁したところで行われる文学研究が自分にできるとは到底思えない」と本書で明かしている。父信太郎はそれとは真逆であり、マラルメの詩句に対して句読点のひとつまであらゆる版本を検討し明らかにするのを使命としている。「コチコチの実証主義」で、良くも悪くも東大仏文の伝統は信太郎から生まれている、という意見だ。そのアカデミックな伝統が世のフランス文学の研究者を席巻している。