蝦夷地別件 上 (小学館文庫) の感想

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タイトル蝦夷地別件 上 (小学館文庫)
発売日2013-01-21
製作者船戸与一
販売元小学館
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カテゴリ文学・評論 » 文学賞受賞作家 » 直木賞 » 101-125回

購入者の感想

本件でなく「別件」。
タイトルの非情さは作者が読み手に突きつける
刃の切っ先のようではないか。
正史が圧殺した草民たちの咆哮と慟哭は
あくまでも本件ではなく別件に過ぎない、
という非情さだ。
それぞれの憂国と、それぞれの救国は
血溜まりの中でもつれ合う。

物語全編は3人称1視点で描かれてはいるが、
視点は章ごとに異なる。
ひとつの章は、ひとりの登場人物の視点に限定されており、
神の視点で俯瞰される記述はない。
これは他の船戸長編にも採用されている手法だ。
章ごとに一寸の虫、つまり、ひとりの登場人物の五分の魂を
生々しく描き出す効果を、この手法はもたらしている。
だから描写は叙事に徹しておらず、
それ故に、この小説はハードボイルドではない、
と思うのだ。

物語の背骨は
18世紀のユーラシア大陸を串刺しにするダイナミックな歴史観だ。
東欧と極東を貫く、この壮大な視点は
多くの読み手を陶然とさせるが、
この切り口は実際の歴史研究の場でも
指摘されたり議論されていることなのだろうか。
作者による完全なフィクションなのだろうか。
ぜひ専門家の見解をうかがいたいものだ。

という事を考えたのは、
この物語で描かれるユーラシア大陸の東西のパワーバランスで
1939年のノモンハン事件を連想したからだ。
ソ連軍の主要軍力が欧州に集中する状況で
モンゴルで発生したソ連と日本の武力衝突は
その後のドイツとソ連によるポーランド侵攻に結びつき
第二次世界大戦へとなだれ込む。

スターリンがナチスドイツの動向を懸念している隙に
東を攻めようとする関東軍(ノモンハン事件)。
エカテリーナ2世の南下政策を妨害しようと奔走する
救国ポーランド貴族(蝦夷地別件)。

作者が到達する最終地点が満州国演義であったことと
無関係ではないのではないかと、

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