冒険歌手 珍・世界最悪の旅 の感想

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参照データ

タイトル冒険歌手 珍・世界最悪の旅
発売日2015-09-18
製作者峠 恵子
販売元山と渓谷社
JANコード9784635886246
カテゴリジャンル別 » ノンフィクション » 歴史・地理・旅行記 » 紀行文・旅行記

購入者の感想

たぶん、この探検隊はものすごい大変な僻地で大変な目にあっているんだと思う。

第二次世界大戦で日本兵40人が呑み込まれ死亡したという濁流。
ほんの数十年前まで人食文化が残っていた村。
皮膚の形が変わるほど襲われる蚊や部屋の壁にビッシリと蠢いているアレ。
何も頼ることができない大海原で転覆寸前になる船。

もし、文章力がある人ならこのカタルシスをお前らも喰らえと熱気をもった文章で書き上げるだろう。
だって、様々なアクシデントを知恵努力根性でどう乗り切ったのか、それが冒険ドキュメントの醍醐味なのだから。

それが全く伝わってこない
だってこの人は芸能界にいる歌手。

雑誌の募集広告を見て、自分を変えたい、というボンヤリとした気持ちで申し込んだ程度の覚悟で、隊員になってから急いで船舶免許を取りクライミング技術を『神奈川』で学ぶなど冒険に行く前からおぼつかない足元。

いわば僕たちとなんら変わらない、普通の、しかも女性がこの大冒険に挑んだ。
いや、文章の中ではあまり挑んでないっぽい。
日記なのでその日に何が起こったかだけがつづられている。(本には備考として補助の説明文もある)

日本兵40人を呑み込んだ濁流は10行も使わずにクリアーした。
太平洋ど真ん中の危機はすぐに星空の美しさの感想にとって変わった。

ジャングルクルーズを探検してます、みたいなノリだ。

読んでいる自分はどうにか「この冒険は大変なんだ。ジャングルを、絶壁を、ピラニアがいる川を、超えていくのは本当に覚悟がいることなんだ」と補完しながら読み進める。そうしないと脳内カタルシスが溢れてこないから。

それを求めてるのに
彼女の文章はジャングルクルーズを突き進む。

あまりのあっけなさにKindleをめくる指はスピード上げていくが、それさえ簡単に抜き去り彼女はあっさりと人類未踏の山から伝説の犬探しに目標を変えてしまう。

ついて行けない。

タイトル、そして表紙、ここ数年見た書籍の中ではトップランクに入る怪しさ。

どうやら峠恵子という名の女性歌手が、遠征隊の一員としてヨットでニューギニア島を目指し、さらに到着後オセアニア最高峰の北壁を初登攀するという話なのだが、実は登山もヨットも素人同然らしい。なんだか怪しいというか胡散臭いというか。

行きのヨットで経験する強烈な船酔いや不便すぎるトイレ事情、日本を出国する前に早くも隊員1名がリタイアしてしまうという大ピンチ。
そしてニューギニアに着いてからも、ポーターに騙されたり役人にワイロを要求されたり、目的の山にはなかなか登れず、挙句の果てにはもう1名隊員が離脱してしまうなど、スリリングな展開にいつの間にか引き込まれてしまう。

歌手として成功し仕事仲間にも恵まれていた彼女が、苦労を知らずに育ってきた自分に対し危機感を感じた事が、この旅に挑んだきっかけだったらしい。
常に隊長から怒鳴り散らされ、彼女にとっては大変長く厳しい旅路だったと思うが、たくましくヨットを操縦して日本に帰ってくるラストシーンには思わず感動してしまった。 が、後日談も本編に負けず劣らず物凄い展開に…

つまるところこの作品は、ゲロにまみれ罵声を浴びながら秘境を旅する女性シンガーの日記である。我々はそれを覗き見るという具合なのだが、そんな奇書がなぜ多くの読者を惹きつけるのか、興味がある方はご一読いただきたい。

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