聖ペテロの雪 の感想

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タイトル聖ペテロの雪
発売日販売日未定
製作者レオ ペルッツ
販売元国書刊行会
JANコード9784336059529
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » ドイツ文学

購入者の感想

いつの間にやらコレクションと化していた国書刊行会のレオ・ペルッツ最新作。でも、お話的には晶文社の「最後の審判の巨匠」似といった困りもの。
無駄なくすっきりした文体に、モノトーンの静謐さを湛えながら退屈さとは無縁なストーリーテリング、
ある意味お家芸な「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな」エンド。
そして、毎度お楽しみの訳者あと書き。特に今回は麦角中毒=聖アントニウスの劫火=LSDへの言及に感動
と、基本大満足。
だからこそ終盤あたりのとってつけたような展開はとても残念だったりする。確かに真エンドは別にあるのだからここで盛り上げすぎるのは逆に良くないのかもしれないが、ほぼ同様の展開を見せるアルフレート・クビーンの「裏面」の、内圧を高めまくってからの黙示録的カタストロフに雪崩れ込むあたりに比べるとやはり格落ち感は否めない。
ついで、訳者あと書きのフリードリヒ二世からディックの「高い城の男」にまで広げてゆくくだりは論としての面白さはさることながらもこれはやはり勇み足。メロヴィング朝の君主の名を持つ針鼠を使って作者自らが揶揄してみせるように、本書における「フリードリヒ二世」の名はメルキゼデクやプレスタージョンの名であっても代価可能なものであり、おそらくは、時間が止まったような村の中を絵本から抜け出してきたような仰々しい名前の王侯達が闊歩する、ダンセイニの阿片常用者の夢見る倫敦のような、モノクロームの辺土の上に極彩色の幻想の領地を浮かべてみせるが為のチョイスなのだろう。
とはいえ、キーワードを「フリードリヒ二世」から「LSD」に代え、Wikipediaの同名の項目を紐解けば、そこで語られる本書のジャンクフード版の「帝国とユートピアの夢」は私達に見慣れたもの。恐ろしいことにそこから未だ目覚めていないらしいことの方が余程「高い城の男」的で、父母達の世代を最後にとうの昔に手を切ったはずの愚劣な排外主義と醜悪な夜郎自大が大手を振るって闊歩する様を目撃した時の、あの連中が昨日今日どこぞのドブから這い出てきたのではなく、ただ、自分の目がそれを捉えてなかっただけなのだ、という認識は多分、ペルッツと同じものだ。案外今ペルッツが読まれている理由もこのあたりにあるのかも知れない。

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