接近 の感想

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参照データ

タイトル接近
発売日販売日未定
製作者古処 誠二
販売元新潮社
JANコード9784104629015
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » か行の著者

購入者の感想

 本作は文庫にして180ページ弱しかない。頑張れば1日で読めるかと思ったら大間違い。前回読んだ『ルール』とは違った意味での重厚感に終始圧巻された。

 本作はあの頃の沖縄は何だったのか、という視点と、本土からは異国扱いされ酷使させられる沖縄島民の思いを淡々と綴っていく。身分をはっきりしなければスパイと間違われ、身分を明かせば食糧を持っていかれる。郷土の言葉は封じられ、島は戦場に化し、戦争に大きな形で巻き込まれている中、弥一にしたたかさが光る。良くも悪くも冷静すぎる感はあるが、最後にそれが布石になっていくのが切なかった。

 人間の書き方がずば抜けて上手い。『ルール』で描いた人間ドラマも弥一と仁科の交流と言った形で再現されてはいるが、区長にしろ逃亡兵にしろ、人間個人の書き方が恐ろしいほどリアル。妥協がさらさらない。設定や状況のディティールでも圧倒されたが、本作における負の人間くささには少しまいるね。

 戦争小説という括りにするな、というのはむしろ本作が文学的な境地にいるからかもしれない。人間の書き方にしても。戦争の悲惨さを訴えたのではなく、エンターテインメントでもなく、完全な文学畑から書ききっている。古処文学と言ってもいいかもしれない。奇しくも沖縄は絶好の舞台でありすぎた、と。桜の花が咲く頃、というのは皮肉にしては綺麗すぎる。

 『ルール』も好きだし、本作も個人的には気に入っている。どちらも救いはないんだけれど、それが戦争だということも再確認するし、たった60年少し前の出来事であるというのも事実。どれだけ今後風化させずにいられるか。個人的にも古処誠二は楽しみな作家になる。

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