晩鐘 の感想

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タイトル晩鐘
発売日販売日未定
製作者佐藤 愛子
販売元文藝春秋
JANコード9784163901787
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » さ行の著者

購入者の感想

寛容な男
鈍感な男
明るい詐欺師
ぼんくら
ひとは畑中辰彦を、そう呼ぶ。

「およそ人間ほど高く育つものはない。
深く滅びる者もいない」
これは、彼の口癖である。
彼は、夢を見ているのだろうか。
滅びることを恐れず
高みに上れると思ったのか。

 だが結局、破綻した。
そしてまた、破綻した。

 そのつけの後始末を、杉は回された。
別れた旦那なんか
無視すりゃいいだろう。
煮え湯を飲ました奴は
切り捨てりゃいいだろう。

 なのに、彼女は心ゆくまで怒らなかった。
「辰彦は彼なりに
一生懸命に生きた」
杉は黙って、受け入れるという。

 その時ふと、ミレーの晩鐘が浮かんだ。
一日一生懸命働いた農夫婦が
晩鐘を聞いて祈りを捧げる絵である。
彼女と農婦を重ねてみる。
はたして杉は、怒るだろうか。

理想家、詐欺師、ギャンブラー、文学者。
資産家に生まれたゆえの人当たりの良さは
信奉者を常につくるが、その計画性のなさで
周りを不幸のどん底にたたき落とす。
しかし彼はいつもニコニコと笑みを湛えて、屈託がない。
この悪魔のような生活能力のない元夫との幾星霜を回想した小説。
主要人物は仮名だが、文学誌や著名作家は本名でも登場し、
虚実の混ぜ合わせ方が、いったいどこまでが真実かをわからなくさせる。
ただ、この元夫の人となりが生い立ちや身体的特徴から
今までのどの小説よりも、全体に浮かび上がってくる。
同人誌で無償の愛を注いだ先生の背中を見て、たぶんこのような形で
人に感謝され社会貢献したいと思い、
幼い頃から親しんだ文学青年に文学への感化を受け、
無尽蔵に思えた実家の財産を使い、事業熱(それは商売というより
端緒の理想は社会貢献だったのではないだろうか)に燃える。
このどうしようもないデタラメな無生産者(というか借金王)の存在が
佐藤愛子という小説家を仕事に駆り立てたんである。
こういってはなんだが、佐藤愛子の創作活動のために存在したような悪夫であった。
というかこのような最悪の事態と悪魔を昇華し、笑いとばし、生きる術とした
作者に胸を打たれる。最後に締めくくるのは漠とした寂寥感であるが、
こんなにも温かな恩師や文学仲間と、書く場に恵まれたすばらしい人生をみな
うらやむのではないか。最後と言わずまだまだ書き続けてほしい。

『血脈』で全てを出し切ったと思っていた佐藤愛子の新作が、まさか読めるとは夢にも思っていなかった。
それだけでもウルウルものなのに、構成と言い、文体と言い、とても、90才の作家の作品とは思えない中味の濃さなので、感激も一入だ。
まさに奇蹟の一冊と言っていいだろう。
これが、「最後の小説となるであろう」と、作者は後書きに書いているが、常人ではない作者の事、是非、この勢いで100才目前を視野にすえ、さらなる新作を期待しているのは、きっと、俺だけではないのではないか?

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