谷間の百合 (新潮文庫 (ハ-1-1)) の感想

185 人が閲覧しました

フェリックス、モルソーフ夫人どちらの心情もたいへん細やかに描かれています。
フェリックスの孤独な少年時代、夫人に出会って愛することを知るフェリックス、青年に心惹かれていく夫人の悩ましさ。どの場面も丁寧な描写で、登場人物の心をそのまま見ているようでした。人間の感情を非常に上手く書き表している作品でした。
フランスの王政復古時代とは全く違う現代でも、人間の本質は同じだと感じ、勇気づけられました。

生涯に、400字詰めの原稿用紙にして、15万枚以上の作品を残したバルザックの傑作の一つにして、最も詩情あふれる作品です。
谷間に咲く百合のように、フェリックスの狂おしい恋は胸を打ちます。
『赤と黒』のジュリアン・ソレルを好きな人は、フェリックスの哀しい感情のほとばしりに引き込まれてしまうと思います。
またバルザックの力強く、音楽的な文体も魅力の一つです。