わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集) の感想

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タイトルわたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)
発売日販売日未定
製作者ボフミル・フラバル
販売元河出書房新社
JANコード9784309709659
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » その他の外国文学

購入者の感想

 作者の他作『あまりにも騒がしい孤独』がおもしろかったので、読んでみました。床を覆うお札、天井いっぱいの風船、女性の裸体を飾る花々、ホールできらめく三百組の黄金のナイフとフォーク。こんな想像力をかき立てる視覚的な描写が大好きです。
 作者の祖国チェコは、ドイツに占領された歴史を持ちます。占領下では多くのチェコ人が苦難を被りました。だからドイツ人を描く際に悪意が混じってもおかしくないのですが、フラバルの筆致から読みとれるのは民族主義に捕らわれない正義です。その一例が主人公とリーサの出会いでしょう。同胞の嫌がらせからリーザを守ったことで、二人は知り合うのです。主人公はこの時民族主義団体に所属していたことになっています。それでも何の咎もない人が乱暴されるのは許せなかった。これは当時のチェコ人が犯したドイツ人への暴力への批判です。私はこの点につよく感心しました。
 

"これからする話を聞いてほしいんだ。"
ホテル"黄金の都プラハ"の給仕見習いとして社会人生活を開始した14歳の少年、ジーチェの立身出世物語。
前半では"熱々のソーセージ"、"ジッパー"、重なって倒れる2台の自転車、セールスマン"ゴムの王様"の持ち込んだ○○人形、<検査室>でくんずほぐれつする老齢の仲買人、等々の下ネタ、面白エピソードが満載だ。

貴族や僧侶、現役大統領の密会に使用される閑散とした"ホテル・チホタ"では、労働の価値を大衆に説く有閑階級の欺瞞と、その金銭感覚を目の当たりにする。少年はカソリック教会のある歴史的取引に立ち会う名誉を得るも、ホテルオーナーの金銭欲の犠牲となり、ここも去ることになるのだが。

プラハの"ホテル・パリ"では理想的な上司=給仕長に出会い、職務に必要な"勘"を日々鋭利にさせる。
300名が列席したエチオピア皇帝歓迎式典では、ホテル前でラクダを殺して丸焼きにし、その腹の中に動物園で調達した二頭の羚羊(レイヨウ)と20羽の七面鳥を詰めた豪快な料理が供せられる。ホテル所有の黄金のナイフとフォークが並べられる中、偶然の所産により、少年が皇帝の給仕に指名される。
報償と勲章は名誉とともに嫉妬をも生む。それも好転し、名誉を回復するまでは良かったのだが……。

中盤より政治的背景が色濃く顕れる。オーストリア・ハンガリー帝国の支配から脱したチェコスロバキアだが、1930年代後半にはドイツによる浸透を受け、民族意識の高揚はドイツ系住民に攻撃の矛先を向ける。女性にも容赦ない嘲笑と暴力が加えられる中、ドイツ娘と親しくなった少年は、敵に通じた売国奴と呼ばれ、ホテル・パリを解雇される。

新しい職場は、ドイツ国境に新設されたナチス肝いりの宿泊施設だ。"新しいヨーロッパを担う高貴なアーリア人を誕生させる"施設での、すべてが科学的に進められる様は異様だが、これも血脈が異常に重視された世相の為せる技か。

「英国王給仕人に乾杯! 」映画の原作。この作者の作品群は長年にわたり公刊を制限されていたそうです。
「これからする話を聞いてほしいんだ。」で各章が始まり、「満足してくれたかい? 今日はこのあたりでおしまいだよ。」
で、終わる。
エピソードが読む側にじーんと迫り、最後の最後は、万感の思いで読み進めました。感動しました。
この小説を作者は18日間で一気に書き上げたそうです。是非。

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