日本-喪失と再起の物語 黒船、敗戦、そして3・11(下) の感想

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タイトル日本-喪失と再起の物語 黒船、敗戦、そして3・11(下)
発売日2014-12-03
製作者デイヴィッド ピリング
販売元早川書房
JANコード登録されていません
カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 外国のエッセー・随筆 » イギリス・アメリカ

購入者の感想

フィナンシャルタイムズのアジア編集長である著者が、書いた日本論。
驚くほどの取材力で日本という国の現在の姿を描き出している。

いくつも興味深いところがある。
〜日本が、生活水準の大幅な低下を経験せずに済んでいるのは膨大な累積赤字のおかげである。日本政府は、ある時点でなんらかの形でツケを払わずに済ませようとするはずだ。あからさまなデフォルトか、年金や医療などの社会保障コストを削減するか、インフレを起こして、実質的な借金の額を徐々に下げていくかのいずれかだろう。
〜戦後の経済成長モデルに集団主義や共同体的な価値観に特徴があるとする「日本的な」部分は皆無である。20世紀初頭の日本は過酷な競争を特徴とする資本主義であったし、成長が鈍化して社会の高齢化が進むに従い、かつて日本的経営の調子としてもてはやされた制度は次々と崩壊していった。非正規雇用実態から見れば今や、日本の労働市場は多くの欧米諸国より柔軟性が高いとされる。
〜日本の文化が中国とは全く異なると主張するのは、一種の防衛本能に過ぎない。日本はいうまでもなく、中国に深い影響を受けてきた。まさにそれだからこそ、両国の違いを強調することで独自の立場を確立しようとした。
〜日本が中国とロシアに勝ち朝鮮を併合したことはかえってこの国を悲劇的な方向に導くことになった。
〜バブル崩壊後の日本は、思ったほど悲惨ではない。インフレ率と、一人当たりGDP成長率でみると米英に匹敵する成長率である。
〜キャノンの工場を見学したとき、そこで働く作業員たちは、動作を最小限にして効率を最大化する作業技術を身につけていた。時間と空間の無駄の排除があまりにも進んだ結果、スタッフは極めて狭い作業空間内で身を寄せ合って仕事をするようになっていた。工場フロアには無駄から解放された余分なスペースが広がりつつあった。しかし私はそれを見て、一体何のためにそこまでするのかと思わざるを得なかった。
〜戦後日本の奇跡的な経済成長を支えた組織構造がそのまま「原子力ムラ」の最悪の特徴として受け継がれてしまった。エリート官僚が計画を立て国家予算を囲い込んでお気に入りのプロジェクトにのみ注ぎ込み有権者と協議することは滅多にない。

本書の後半では、復興に向けて動き出した陸前高田市と大船渡市の様子が、臨場感をもって再現されています。
視たこと、聴いたこと、感じたことを一字一句逃さないで、世界に、そして後世に伝えたいという著者の思いが伝わってきて、ジャーナリストの必要性を痛感しないではいられません。
インタヴューから得られた貴重な証言が多数紹介されていることも本書の特徴です。
著者は、「ひとたらし」(ジャーナリストに求められる天分のひとつ)の本領を発揮して、共感したり反発したりしながらも、相手の心をしっかりとつかんで、数々の貴重な証言を引き出すことに成功しており、その手法は「敗北を抱きしめて」のジョンダワーを思い起こさせます。
本書は現代史の貴重な記録です。おすすめです。

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