不完全性定理 の感想

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タイトル不完全性定理
発売日販売日未定
製作者菊池 誠
販売元共立出版
JANコード9784320110960
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » 数学 » 一般

購入者の感想

 本書には様々な層の読者からレビューが寄せられることだろう。ここでは、解析学好きの一数学愛好家として、数学に限った範囲の(些か偏った)感想を述べたい。

 他の愛好家諸賢から「何をいまさら…」と言われるかも知れないが、最近、Ilijas Farah and Eric Wofsey「Set theory and Operator algebras」、Ilijas Farah「Logic and operator algebras」及びJustin Tatch Moore「The Proper Forcing Axiom」(インターネットに公開されているの執筆者のサイトから誰でも入手可能です)等の論説を眺め、函数解析学に於ける数多くの具体的な未解決問題群が数学基礎論(公理的集合論、モデル理論等)の武器を用いて鮮やかに解決されている様子を目の当たりにして、大きな感銘を受けた。今や作用素環論やBanach空間論等の無限を直接扱う函数解析学の分野に向かう際のアタリマエの素養の一つとして、数学基礎論の知識が要求される時代になっている、とすら評者には思える。丁度、多変数Fourier解析の研究に、加法的組合せ論の知識が要求されていることと似た風景であると言えるかもしれない。本書は、そのような思いを同じくし、今から数学基礎論の素養を身に着けたいと思っている解析学好きの若い学徒や愛好家諸氏に、いの一番にお勧めしたい数学書である。

 本書の特徴を述べれば、数学的にきちんとしていて、その上で深くて率直な考察が展開されていることである。一般的な読書人をも読者対象とした数学書はたいてい、ここには何の疑問も残らない、すでにすべては解決されているという調子の、いわゆる「上から目線」で書かれているものである。 しかし本書は数学的には実に簡潔に、きちんと書かれていながら、こんなこともわかっていない、あんなことも実は本当なのだろうかと率直に不完全性定理を巡る問題が考察されている。実は専門家にとっても(あるいは専門家だからこそ)不完全性定理はよくわからない定理なのであるらしい。そうしたことが正直に書かれている本が今まであっただろうか? (これは数学的に厳密に証明されていないという意味ではない。)

 たとえば、不完全性定理が知性の限界を示しているとはよく聞く言葉だが、本当にそんなことが不完全性定理から言えるのだろうか? 不完全性定理の証明に自然数論を使っていながら、自然数論の無矛盾性について結論を引き出すことができるのだろうか? (無矛盾性を証明する)ヒルベルトのプログラムとは一体何だったのだろうか? 構文論と意味論という言葉は格好よく知的に響くが、本当はその区別はそんなに明確ではないのではないか? 計算可能性の概念はChurchのテーゼで本当に基礎付けが終わったのか? 等々、等々。

 私のような非専門家が普段から疑問に思っていて、だれに聞いてもよくわからないような問題が、解決されているとは言わないが、丁寧に論じられている。そもそもそうした問題はそんなに簡単に解決できるものではないのだということを本書は明らかにしている。

 本書によってなお不思議さが深まった、訳が分からなくなった、と感じる人も出て来るだろう。しかし、それでこそ本当に哲学的な問題を考えていると言えるのではなかろうか?

 高木貞治の『解析概論』が出版された時、これを小脇に抱えて歩くのが本郷では格好良いとされたものだと聞いたが、菊池さんの『不完全性定理』を抱えて歩くのが現代の知識人の証明であると言いたい。

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