仕事で使える心理学 (日経文庫) の感想

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　200頁少しの新書版の本書では、交渉力、リーダーシップ、意思決定やストレス等の幅広いトピックスを取り上げられている。それだけに各トピックの説明は簡単にならざるを得なかったのであろう。たとえそうであっても、重要なトピックであるモラールやモチベーションについての説明がされていないのは不思議である。マズローの欲求5段階説やハーツバーグの衛生理論を理解しておくことは、効果的なリーダーシップを取るうえでも役に立つのではないか。
　もう1つ注文をつければ、執筆のスタンスを絞ったほうがよかったのではなか。本書から窺われるスタンスは3つある。１つは、経験談に基づく教訓を述べるもの、2つめは心理学から導かれる教訓を取り上げるもの、３つめは心理学のある側面の実験結果を述べるもの、である。1つめのスタンスで書かれた類著と比べて、取り上げている範囲と深さにおいて本書は明らかに劣っている。では2つめのスタンスではどうか。書名から読者が期待するのはこのスタンスからの記述であると思われるが、やはり中途半端である。3つめのスタンスも然りである。心理学の実験結果としては面白いが、「仕事で使える心理学」に仕上がっていない。このように執筆の視点が一貫していないので、散漫な印象があるのを否めない。
　本書は、仕事に関係する心理学の初歩の初歩を知るうえでの手引書と見るのがよいと思われる。