人間合格 の感想
300 人が閲覧しました
参照データ
タイトル | 人間合格 |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 井上 ひさし |
販売元 | 集英社 |
JANコード | 9784087727333 |
カテゴリ | 文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » あ行の著者 |
購入者の感想
井上ひさしの戯曲の中で歴史上の事件を主題にしたものは、よく「評伝劇」と呼ばれる。全体的にコメディータッチで、主人公は有名な人物のことも、無名あるいは架空の人物のこともあるが、それらは単なる「伝記」ではなく、そこに必ず何らかのメッセージが含まれている。 この作品もそうだ。物語は津島が佐藤・山田に感化されて「アカ(=共産主義者)」の運動に加わるところからはじまる。その「地主の子」である津島はそのことで常に悩み続けるのだが、昭和19年から21年にかけて、その悩みも置いて行くかのように時代は変動する。ふと津島は、戦争が終わって時代は変わったはずなのに、実際には理想と程遠いことに気づく。自分たちが「これでいいのか!」と訴えていた戦前と何も変わっていない、「自分かわいさ」がまかり通っていたのだ。 物語の中には、当時の言葉や太宰治の作品をもじったものが数多く登場する。もちろんそれらを紐解いていくのも一つの楽しみだが、作者が篭めたさらに大きなメッセージ、「これでいいのか!」と問い続けることの重要性を、作品全体を通して感じられると思う。