経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈下〉 (岩波文庫) の感想

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タイトル経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈下〉 (岩波文庫)
発売日販売日未定
製作者J.A. シュムペーター
販売元岩波書店
JANコード9784003414729
カテゴリジャンル別 » ビジネス・経済 » 経済学・経済事情 » 経済学

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シュンペーターは、「孤高の哲学者」と言われるが、得てして彼の理論は独特である。それと同時に、常に「個々の具体的な事象」には惑わされないし、かつそのような言語に反駁を加え続ける。シュンペーターは「経済学とは科学だ。」を信念に持ち続けたし、この本からも徹底した客観的な分析が述べられ続けている。

とはいえ、同じことを何度もいっているような気がしたり、「あの時の言葉はこういうことだったのか。」と思われることも多い。本人もそれを自覚しているのか、上巻のまえがきでも「この書物の中からなにものかを獲得できるとおもうほどの人は、これを熟読しなければならない。」といっている。たしかに冗長で複雑な言い回しが多いし、結局何が言いたいのか分からないことがおおい。おそらく原作(英語ないしドイツ語)で、関係代名詞を多用しているのであろうと推測するが、これはかの大哲学者カントにも当てはまる。おそらく執筆しながら思い出しつつ書いてるのかもしれない。
そのような学者は、得てして講義が面白い人が多いようだ。個人的にもシュンペーターは、理論の正当性や私の彼の理論の理解の程度はともかくとして、彼の「経済学とは科学である。」という姿勢には大いに共感を呼ぶところであるし、むしろ尊敬している。一重二重にも叶わぬ願望であるが、(時代的に、また英語とドイツ語が堪能でないなどの要因で、)彼の講義やゼミには参加してみたい。

内容についてだが、彼も土地や利子に関しては悩んだようである。「土地それ自体に価値はない。産業機械などと違って、それを見いだす機会が正常な経済循環のもとでは起こりえない。その用役が売買されるに過ぎない。土地の価値を意識することがある唯一の機会は、土地の売買によってのみである。それでもなお土地が売買されるというのは、偶発的で、浪費癖とか経済外的要因によるものであろう。」と云う。

 下巻は第四章「企業家利潤あるいは余剰価値」第五章「資本利子」第六章「景気の回転」と、訳者あとがきを収録。上巻で示された経済循環・経済発展の筋書きの詳しいところを説いている。

 第四章はシュンペーターといえば連想されるinnovationの担い手である企業家の行動とその利潤獲得の経路を示し、第五章で消費利子や単純な生産利子と異なるものとして取り上げられる資本利子はそんな企業家利潤に源泉を負っていることを示し、第六章では好況から不況へ、不況から好況へと移り変わる景気変動の理由を前章までの議論と結び付けて解説する。訳者あとがきでは全篇の議論を簡潔にまとめてくれている。

 読み通してみると、企業家という効き目が経済発展全体を牽引して影響を与えていくという筋での理論構築が、話の節目節目に現実の感覚で裏打ちされているおかげで説得力を増しているのがユニークだと思った。普段の生活では大多数の人たちが慣性に従っていることや、リスクテイカーとしての企業家はいずれ誰でも企業家でなくなるという指摘、企業家がある時期に群れを成して登場することやその突破口になる個人の重要性など、通念としての経済理論では語られないかもしれない切り口が新鮮だった。それでも議論全体は経済構造上の要素の相互作用についての考察という経済学の範疇を離れるものではなく、優れて経済学的思考が展開されている。

 ケインズの「雇用、利子および貨幣の一般理論」と議論内容が触れ合っている様子も見えるのが興味深い。三部作の中では最も大胆で読み味の愉しい著書。

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