藤田嗣治「異邦人」の生涯 (講談社文庫) の感想

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タイトル藤田嗣治「異邦人」の生涯 (講談社文庫)
発売日販売日未定
製作者近藤 史人
販売元講談社
JANコード9784062752923
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

購入者の感想

皆さんは藤田嗣治という画家をご存知だろうか。私は幸運にも高校の担任が東京芸大卒の美術担当で、その先生から彼の名前を聞かされていたのでたまたま知っていた(別の人が担任だったら今も彼の名前すら知らなかっただろう)。彼の風貌が与えるインパクトの強さもあって藤田はずっと気になる存在であり続けた。しかし本書を読むまで彼の人生の全貌を知る機会はついぞなかった。一言でいうと彼は西欧社会で高く評価されたおそらく日本美術史上唯一にして最高の画家なのである。

最近でこそ少なくなったが、かつてパリは全日本人にとって憧れの街であった。しかし荻原朔太郎が書いたように「ふらんすに行きたしと思えどもふらんすはあまりに遠し」であった。ましてそのフランスで高く評価されるなぞ、思いもよらない文字通り高嶺の花だった。その憧れの的である花の都パリで名声と賞賛を欲しいままにするという離れ業を藤田は軽々と行ってしまった。空前にしておそらく絶後の成功を絵画の世界でやってのけた藤田に対し、しかし日本の画壇、美術界は冷淡だった。彼の華やかな女性遍歴を指弾し、彼の怪異な風貌を目立ちたがり屋の自己宣伝と非難した。フランス人が賞賛してやまない彼の絵画に何の価値も認めようとしなかった。なぜか。私はこれを日本人の嫉妬だと考えている。自分達が逆立ちしても手に入れられない名声を手に入れる人物を見ると、日本人は喝采を送らずに嫉妬する。難癖をつけて排斥しようとする。しかもその非難排斥は執拗を極め、決して日本画壇は藤田を受け入れようとしなかった。

今日でも藤田はまだ日本に受け入れられてはいないのだろう。ここに日本の重大な欠点があると私には思えてならない。日本人は身内の和を重視する余り、その規格の外にある存在を徹底的に排斥すると言う重大な欠点を持っている。カルテルを維持するためにカルテルの内側での結束は強く強固だが、公正で開かれた競争とは程遠いことをやろうとする。これは部外者には極めて閉鎖的でとっつき難い国となる。こういう欠点を直さないと日本という国は経済が衰えたら本当に何のとりえも無い国になってしまうのではないかと思えてくる。

誰かが「日本人はあの戦争を泣きながら戦った」と表現していました。藤田の「アッツ島の玉砕」は、そうした意味で、あの戦争が日本人にとって、どのような戦争だったのか、についてのある側面を、見事に表現していると思います。そして、戦後の藤田に対する戦争画家としての否定的な評価は、戦後の日本が、戦争とどのように向き合ってきたのかを象徴しているようです。(誰かのせいにして自分自身は免罪するというような・・・・)・・・・藤田にとって「アッツ島の玉砕」は、長年求めてきた日本的なものとの融和、絵画にしかなしえない、超越的世界との融合などを実現した芸術的極致だったと思われます。「アッツ島の玉砕」が戦争画として唾棄すべきものなら、ルーブルのドラクロワやダヴッィドの絵も同様でしょう。無言館の絵や浜田、香月の絵を並べながら、戦争画を批判する視点は確かに大事ですが、戦争画にも様々なものがあるということも否定できないと思います。・・・・・藤田は最後は芸術世界のコスモポリタンになったという著者の評価はやや性急すぎるかなとは思いましたが、全体として、非常に良くできた書物だと感じました。・・・・最近は、藤田というと、例の乳白色の絵、エコールドパリの画家というイメージが強いかもしれません。私もかつてはそうでした。この書はそうした一面的な藤田像を変え、より広がりのあるものにしてくれます。

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