掟上今日子の備忘録 Blu-ray BOX の感想

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脚本の野木亜矢子さんは｢空飛ぶ広報室｣や｢逃げるは恥だが役に立つ｣など、論理的なストーリーでのテンポ良いセリフ回しが新垣結衣さんの滑舌良さと相性が良く、ことごとくヒットさせている。本作は平均視聴率9.7％と奮わなかったが、意外になかなかの秀作だ。最近では映画｢50回目のファーストキス｣が同じ設定だったが、前日からの｢記憶の引き継ぎ｣を操る事で人生を自在にコントロール出来、それは自分にも他人にも可能だ。
何が真実かを曖昧にする危うさ反面、記憶のリセット機能は毎日を今日だけに集中する人生を提供してくれる。それが幸か不幸かを決めるのは意外に難しい。そう、人生の評価なんて誰にも出来ない曖昧なものなのだ。それに気付かせる本ドラマは案外深い。
一話完結の推理ストーリーには特段の深みは無く、メインストーリーとの繋がりが薄いので印象に残りにくいが、全編通して観ると犯人達はそれぞれ他人からは解りにくい心の傷や大事な思い出に起因する動機を持っている事が判る。変えられない過去の記憶と今日を変える意志との闘いこそ、人生の真実だと思い知る、そんなドラマだ。
新垣結衣の透明感のある演技は、毎日記憶を失う掟上今日子を必要以上に暗くするのを抑えているし、｢リーガル･ハイⅡ｣で共演した岡田将生の隠館厄介の筋金入りの品行方正さや、及川光博らサンドグラス住人達の健気な奉仕精神が愛らしい。珍しい工藤俊作の遠浅刑事役も暑苦しくなくて良かった。
作風が喜劇的でライトタッチなので感動の名作と評されないが、記憶に縛られず、災いに溺れず、今日を共に生きる人との信頼の尊さに賭ける、人生の本質を突いたとても優しい秀作だと思う。
まさに備忘録みたいに時々観たくなるので、どうしても手離せないんです。