危険社会: 新しい近代への道 (叢書・ウニベルシタス) の感想

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タイトル危険社会: 新しい近代への道 (叢書・ウニベルシタス)
発売日販売日未定
製作者ウルリヒ ベック
販売元法政大学出版局
JANコード9784588006098
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会一般

購入者の感想

原著出版から23年、日本での完訳版出版から11年が過ぎた。著者の言う危険社会は、現代でも地球温暖化などの状況下で古びた主張とはなっていない。科学技術が、多様で大規模で深刻な(に思える)危険を過剰に作り出した。科学の不信が生まれると同時に、一方では対処のため科学が求められる。が、科学はそれに答えきれず、諸説は真理と見極められず、科学とは対極であるはずの政治が仲裁に出てくる。それは、今もほぼその通りだ。危機の深まりはあっても、著者の主張の範囲内で社会はこの20年以上質的に変わらなかった。その意味で、著者の主張に目から鱗の斬新さが、今感じられるわけではない。
斬新さはむしろ第二部、「個人化」された社会で個人に押し寄せる危険を述べた部分にある。近代産業社会は階級対立を克服するため福祉国家化したが、この過程で内封していた別の矛盾を解き放った。女性の労働市場への参入や教育の大衆化は、科学技術のもたらした生産性向上とともに労働力の恒常的過剰・大量失業の常態化を生み出した。これが雇用の不安定化や家族の危機を招き、個人が労働の場(職場)でも生活の場(家族)でも孤立していく。人は職場や家族というかつては共同的・歴史的な認識を得られた場を失い、孤独で非歴史的な存在となる。そこでは個人が自己責任による選択を迫られるが、そもそもそれはシステムの不良から発生したもので個人の選択などではどうにもならない。個人はストレスを抱え込み、社会的な危機が社会的に解決されることなく、個人の病気を作り出す。
派遣切りや子供の虐待など、現在の日本で切実さを増す事象に至るまでの情況変動を、ベックは1980年代半ばのドイツで正確に押さえていた。現実はベックの指摘通りに20年以上進み、今に至った。これは驚くべきことだが、悲しみももたらす。こうして、この書は今も読まれるべき生命を灯す。ただし、一つの、しかも小さくない弱点は、「『単純かつ明快』とはほど遠い論旨の運びとレトリック」(訳者あとがき記)で叙述された大部の書物であることだ。読み通し、納得いく程度の理解を得るには、ある程度の時間を覚悟すべきかもしれない。

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