心の進化を解明する ―バクテリアからバッハへ― の感想

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ざっと全部読みました。

私たちの心がどのようにして生まれたのか多角
的観点から答えを見つけ出そうとした挑戦的作
品です。

心はいかにして存在するにいたったのかという
問いに対して，形質的な進化の過程，ミーム，
文化進化など幅広い観点の導入によって，説得
力ある答えがえられているように思います。そ
の点は概ね満足ですし，デネットの主張に多く
の部分で賛成できます。

たしかに本書は心を解明しようとする本ですが，
脳や心理学の一般書・専門書にあるような「心
理学的記述」は少ないように感じます。心に関
する記述よりも進化生物学的やその周辺領域の
記述が多いので心理学の本と思って読むよりも
進化生物学の本だと思って読まれたほうがいい
です。そもそも進化的観点というアプローチを
とっているので当然ですね。

私が単に無学であった可能性が大きいですが，
少々理解するのに難しい本でした。邦訳に問題
があるわけではないと思います。大部分は，デ
ネットの言い回しなどで，「結局何がいいたい
？」という疑問の残るところが多い印象です。
もっともその印象はデネットの前著から抱いて
いたものですが。

前述の通り本書は非常に挑戦的で素晴らしい本
です。哲学書にカテゴライズされるかもしれま
せんが，心理学・生物学を学ぶ人間にとって非
常に示唆に富む作品だと思います。もっとはっ
きりした言い回しが求められるかもしれません
が，それは誰にも責められるわけではないのか
もしれませんね。読者側が何回も読んで理解す
るしかないのかもしれません。そうしたネガテ
ィブな要素を含めても，読む価値のある作品で
す。時間をかけて読むことをお勧めします。