プーチンの世界 の感想

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本書は、『Mr. Putin : Operative in the Kremlin』の第二版の翻訳である。邦題の『プーチンの世界』は、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の「ミスター・プーチンは、我々とは違う世界に住んでいる」という言葉からの引用である。

この本の第一部の加筆訂正前の内容が、『Mr. Putin : Operative in the Kremlin』の第一版の内容である。おそらくこの当時につけられた副邦題が、今回の邦訳第一版の副題となったのではないかと推測できる。
出版社の意向なのか、装丁や見出しでは「プーチン＝工作員」というイメージが前面に押し出されているが、本文中に何度も記されているように、プーチン大統領は一つのイメージだけで捉えることが危険な、複雑な人物である。
また「ＫＧＢ＝工作員」というステレオタイプな見方も、危険なものがある。ＫＧＢには「汚職に関わらない人々」というイメージが付随しており、このような反汚職と結びついた肩書は、知る限り他の国には存在しないものである。
また、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが最新作『セカンドハンドの時代』で集めた証言の中には、「共産党の悪口は言えても、ＫＧＢの悪口は怖くて言えなかった」という主旨の証言が存在している。この党を最優先とはしない合理性は、他の社会主義国家とは明らかに異なるもので、それは『プーチンの世界』を構成する要素の一つでもある。

この本の第一部と第二部では、『プーチンの世界』の分析手法が変わってきている。第一部では主にプロファイリングによる分析を中心に、プーチン大統領は過去の誰に似ているかを分析して、過去の政治家が持っていた幾つかの要素の集合体であろうと結論付けたのである。英語版第一版ではプーチン大統領の再出馬時のプーチン離れについて言及し、さて「皇帝になった工作員」はこの先どうなるのでしょうかというシニカルな見方で結ばれたのである。その時点でアメリカは、プーチン再選はあり得ないと判断していた。何故ならこのような状況から復活を遂げた政治家は、過去に存在しなかったからである。