ほんとうの憲法: 戦後日本憲法学批判 (ちくま新書 1267) の感想

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タイトルほんとうの憲法: 戦後日本憲法学批判 (ちくま新書 1267)
発売日販売日未定
製作者篠田 英朗
販売元筑摩書房
JANコード9784480069788
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 法律 » 憲法

購入者の感想

憲法を学ぶはしくれの大学院生の立場から一言したい。
著者は平和構築の分野の第一人者であり、その場面では傾聴すべき点も決して少なくない。
しかし、本書はまさに「生兵法は大怪我のもと」を体現したような書物である。
憲法学界の極めて端にいる本評者であるが、憲法学界は著者の説くような東大学派の独占状態ではない。また自身の法哲学的見地から憲法学を鋭く批判する井上達夫氏の議論も、(少なくとも)真っ当に取り上るべしとする憲法学者は少なくない。
しかし井上達夫氏の議論を取り上げる憲法学者であっても本書の様な議論は取り上げないだろう。
何故か。それは、法律学としての議論の水準が低いからである。
この点紙幅の制限から詳述できないが、さしあたり、英米法的に憲法を解釈すれば9条の下集団的自衛権が認められるなどというのは全くナンセンスな議論である、という程度で充分であろう。コモン・ロー上自衛権が認められるとしても(この解釈自体成り立つかが疑問であるが)、それを9条が制限している、という解釈は論理的には成り立ちうるからだ(私はこうした解釈をしないが、ありうべき解釈だとは考える)。
またコモン・ローというのは、それだけで英米法学において多くの専門家のいる、極めて複雑な分野である。憲法学に限らず法学において、安易に言及すれば批判を免れ得ないコモン・ローについて、(憲法学以前に、法学の)専門外の著者が言及できるというのは、なかなか驚きである。

こうした内容上も批判の多いところだが、学問の作法上問題があることも多々指摘されている。この点は、水島朝穂氏のブログを参照されたい(私は氏の9条論には賛同しかねるが、この批判に関しては同意する)。

ただ一方で、党派性抜きに、「まともな」憲法学がこうした議論を取り上げ、きちんと批判しておくことが今後必要にもなるのだろう。
「相手しない」ということが許されないのは、この著作に対する他のレビューからも明らかである。

昨今の憲法論議の流れや著者の前著(集団的自衛権の思想史──憲法九条と日米安保 (風のビブリオ))からは、本書は憲法九条を中心に論じた本だと思うかもしれない。
だが、九条についても議論はあるもののそれは本書のメインテーマではない。
本書は、戦前から戦後の憲法学の流れ、憲法制定過程等を明らかにしつつ、(歪んだ形の)ドイツ国法学に基づく主流派憲法学に対して、英米法と国際法の観点から批判的検討を行った本である。

日本国憲法はGHQによって書かれたものであり、その構成は明確に英米法の理解を基礎にしている。
そのため筆者は、日本国憲法は英米法的理解を基礎にして解釈されねばならないとしている。
また、日本は国際社会の中にあり、国際社会は国際法に従っているため、特に安全保障等は国際法に則って理解がなされねばならないとしている。
一方の日本の主流派憲法学は、プロイセン憲法を手本とした戦前の名残でドイツ国法学が未だに主流となっており、憲法解釈もその流れに属している。
この違いは門外漢には大した違いには見えないように思えるかもしれないが、いくつかの重要な概念が食い違いを見せる。

ドイツ国法学では国家有機体説に基づく理解がされており、そのため「国家の基本権」「国家の統治権」や、逆に「絶対主権としての国民」のような「一元的な主権」という考え方が行われる。
これに対し、英米法的理解では、絶対主権は存在せず、主権は相互に抑制しあうものであり、国家の基礎は「社会契約」、すなわち人々の基本的人権を保障することに置かれる。
この見方に基づけば、「八月革命説」や「憲法制定権力」などの怪しげな概念を持ち出す必要はなくなり、平和主義や自衛は「国家が国民の基本的人権を守るように行動するべき」という極めて穏当な基礎から理解できるという。

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