蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書) の感想

184 人が閲覧しました
アマゾンで購入する

参照データ

タイトル蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)
発売日販売日未定
製作者倉本 一宏
販売元中央公論新社
JANコード9784121023537
カテゴリ歴史・地理 » 日本史 » 一般 » 日本史一般

購入者の感想

蘇我氏ほど悪役のイメージが染み付いている古代豪族はいない。

自分たちは、昔の教科書でいう大化の改新(いつの間にか”乙巳(いっし)の変”になっている)で、改革派のエース中大兄皇子とそれを支える中臣鎌足が組んで、旧守派代表の蘇我入鹿をやっつけ、古代国家成立の基礎を作ったと刷り込まれている。

しかしそのあと、中臣鎌足がいつの間にか藤原姓を名乗り、息子(不比等)が蘇我氏から嫁をもらい、その子孫がいつの間にか皇族に入り込み、栄華を極めるあの藤原氏になったことは、教科書に書いてなかったように思う。

本書では、乙巳の変で滅ぼされたのは蝦夷(えみし)・入鹿(いるか)といった蘇我氏本宗家のみであって、その後も中央豪族層を代表し、倭王権を統括する大臣(オホマヘキツミ)家としての蘇我氏の地位は揺らぐことはなかった、と説明する。

筆者の蘇我氏観は、
・蘇我氏は、倭国が古代国家への歩みを始めた六世紀から七世紀にかけての歴史に対してもっとも大きな足跡を残した先進的な氏族
・渡来人を配下に置いての技術や統治の方式、ミヤケ(屯倉)の経営方式に見られる地方支配の推進を見ていると、乙巳の変や、白村江の戦いや、壬申の乱が起らなくても蘇我氏のもとで倭国は古代国家に到達していた、
というもの。

五世紀に権勢を振るった葛城氏が六世紀には見えなくなり、代わって蘇我氏が台頭する経緯に始まり、稲目・馬子・蝦夷・入鹿と続く蘇我氏の流れなどが詳細に語られており、蘇我氏の活躍の様子が良くわかる。

蘇我氏を中大兄皇子の敵対者として描く『日本書紀』とは違った目で、古代国家成立の過程を見る斬新な本であると思う。但し、巷のトンデモ本とは違うので、読み進めるにはある程度の知識が必要。お薦めの一書である。

蘇我氏を題に掲げる新書本が、2日違いで2冊(中公、岩波)出てしまった。蘇我氏のTVドラマの予定でもあるのかと思ってしまったが、そういうことでもないようだ。
二冊の違い
●中公本は熱血ホットで、岩波本は比較的クールである。つまり、中公本は明らかに、蘇我氏びいきである。蘇我氏に惚れている。一方、岩波本は特に蘇我氏の肩を持っているわけではない。中公本は「蘇我氏・・悪者」という一般イメージを塗り替えようと奮闘しているが、岩波本にはそこまでの意図はないようだ。
●中公本は、徹底的に蘇我氏とその一族について書かれているが、岩波本は「蘇我氏の古代」の題通り、蘇我氏が活躍した古代について書かれており、蘇我氏とその一族から離れる記述もある。第五章などは、もう蘇我氏の時代ではないとばかりに、藤原氏について書かれている
●蘇我氏が「乙巳の変」で滅んだわけでないことは、両書とも力説している。だが、「壬申の乱」後の苦境下で、石川氏となって生き延びたことの評価は異なる。岩波本は、石川氏の活躍は認めても、あまり書こうとせず、蘇我氏は終わったような書きぶりなのに、中公本は、石川氏が娘をキサキとして提供し続け、蘇我氏の高貴な血を伝えたことを重視する。「長屋王の変」で藤原氏により、蘇我系の皇族が全滅させられても、一族は官人として活躍し続けたことを重視し、書き続ける。つまり、蘇我氏の存続、連続性が強調されている。
●中公本は、強いこだわりの本である。登場する天皇、妃、皇族について、それぞれ、蘇我氏の血の濃度(二分の一、四分の一等)が繰り返し書かれており、便利である。また、新書版なのに、記録に残っている蘇我氏とその一族の人名と官職は、末裔まで、すべて書き尽くさねばならないかのように、すさまじい数の人名(付記事)が出てくる。ど迫力である。
私的結論
岩波新書本よりも、本書のほうが圧倒的に面白い。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書) を買う

アマゾンで購入する
中央公論新社から発売された倉本 一宏の蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)(JAN:9784121023537)の感想と評価
2018 - copyright© アマゾン通販の感想と評価 all rights reserved.