キュレーションの現在—アートが「世界」を問い直す (Next Creator Book) の感想

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ビジネス関係の自己啓発めいた「キュレーション」本がじゃんじゃん出る中で、フィルムアート社は2009年の「キュレーターになる！」、2013年のハンス・ウルリッヒ・オブリストの「キュレーション」など、正統なキュレーション本を熱心に出している。中でもこの本は入門編として出色。言葉ばかりが先走っている中、ようやく基本を押さえられる本が出た印象。
インハウスのキュレーター（学芸員）、インディペンデント・キュレーター、アーティスト、アカデミシャンといった顔ぶれの執筆陣はバランスよく、平明に丁寧に、かつ熱意あるテキストがコンパクトにまとめられている。論者それぞれの研究や経験を生かした言葉は説得力があり、多様性も確保してあって最後まで飽きなかった。対談とコラムを交えた構成も読みやすい。
欲を言えば、後半に収められた過去の伝説的企画の解説は淡白に過ぎ、さらに深く知りたい読者のための情報を入れてほしかった。
各論者のテキストも経験に基づく話が多く、入門の先にもう一歩踏み出すためのブックガイドなどはぜひ欲しいところ。英語圏でキュレーション・セオリーを扱った本は多く、どこから手を付ければ良いのか知りたいと思っていたのでなおさら。
それにしても、本文を見ると美術館学芸員も奮闘しているように読めたが、冒頭の対談で椹木野衣氏が「本当の意味でのキュレーションは自主組織しかやってない」趣旨の発言をし、巻末の「キュレーション年表」にも国内美術館の企画展はほぼ皆無。私たちがふだん見ている美術館の展覧会は無価値なんだろうか。