認知の母にキッスされ の感想

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タイトル認知の母にキッスされ
発売日販売日未定
製作者ねじめ 正一
販売元中央公論新社
JANコード9784120046735
カテゴリ文学・評論 » 文学賞受賞作家 » 直木賞 » 101-125回

購入者の感想

自宅で倒れ、骨折入院した母親の認知症が進む。
妻に「大マザコン」とからかわれながら、入院中も退院してからも、毎日つきそい看護に励むねじめ正一。
認知症の母みどりさんは、きままわがままにさまざまな言葉をねじめにぶつける。
「やっぱり正一はパソコンだろ。…正一がパソコンでよかったよ。私はパソコンに閉じ込められちゃって外に出られないんだよ。…パソコンはパソコン電車になって走り出すんだ。走り出したら、パソコン電車は駅に止まらないんだよ。…パソコン電車は走っている途中でくるくる回り出すんだよ。パソコン電車はいやだね。パソコン電車はいやだね。パソコン電車はいやだね。…」
これって、そのまんまねじめ正一の詩といわれても違和感がない。
かつて名作『高円寺純情商店街』(1989年、直木賞受賞作)にでてきたお母さん。乾物屋、のちに民芸店に商売替えして、必死に働いていたあのお母さんが、実は詩人だったのか。
ねじめの父正也は、句集もだす俳人だったという。母は、この俳人としての父を熱愛し、みずから句作も行い、父の死後は父が入っていた結社に属し、ねじめ正一に句作のてほどきをするほどだったというのだ。
いくら息子とはいえ、直木賞作家にして詩人、あの谷川俊太郎と「詩のボクシング」で今に語り継がれる名勝負を演じた詩人に、俳句の手ほどきをする?
しかし、この本で記録されているみどりさんの言葉の連射は、確かに詩人・俳人のものだ。
「正一の馬鹿。籠の中から女どもがわたしめがけて撃ってきている。でも、私は女どもの攻撃なんか平気だ。女どもにおしっこだってうんちだってかけてやるつもりでこのお腹いっぱいに溜めてあるんだから。パンツ脱いでおしっこじゃんじゃんかけるよ。うんちばんばん投げるよ。…一銭五厘の飴玉が楽しくてこの世に生きてなぜ悪い。」
糞尿譚好きのところも息子そっくり。
ねじめは、高齢の母を介護する話を書いているようにみせながら、俳人・詩人ねじめみどりの肉声の詩を残すことを企図してこの本を書いたのではないのか。
だとすれば、なんという親孝行な息子だ。
認知症詩人、ねじめみどりの誕生だ。

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