朱夏 (新潮文庫) の感想

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タイトル朱夏 (新潮文庫)
発売日販売日未定
製作者宮尾 登美子
販売元新潮社
JANコード9784101293097
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » ま行の著者

購入者の感想

私も引揚者であることから関心を惹き読んだ。19歳で生後間もない乳飲み子を背負い、開拓団の教師である夫と共に大陸に渡り、まもなく敗戦、引揚げまでの地獄の日々。生きるには少なく死ぬには多すぎる、食物をめぐる人達の生活がそこに展開される。

国民党、中共、ソ連軍が入り乱れての当時の大混乱の中で、今まで支配されていた満人と立場が逆転、押し寄せた暴民に欲しいものは皆やるから命だけは助けてくれというと、荷物など何も要らない、日本人全員の命が欲しいと返答される。

作者の女性らしい細部に亘る克明な描写、次々と立て続けに事件は起こり、だれて飛ばし読みなどの気は少しも起こらない。内地に帰り体験を語るも、苦労したのはあんた達だけじゃないのよと聞いてもらえず、書く事により残そうというのが物書きになった動機だそうだ。

作者は53年後にモンペ姿で現地を再訪、すっかり穏やかな満洲の人々に囲まれ、日本の開拓団から受け継いで作られた陸稲の米飯をご馳走になり感激する。そこには長い時の流れが必要だったのだろう。

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