大衆の幻像 の感想

195 人が閲覧しました
アマゾンで購入する

参照データ

タイトル大衆の幻像
発売日販売日未定
製作者竹内 洋
販売元中央公論新社
JANコード9784120046193
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会一般

購入者の感想

本書も著者の竹内洋先生があちこちに寄稿した文章を中央公論社編集部の人間が再構成し、あたかもそれらをはじめから書き下ろしたかのように再構成することで出来上がったシロモノである。ただし同じやり方で作った前作「学問の下流化」に比べると羊頭狗肉でもないし、内容含め、かなり出来は良くなっている。

本書を貫くテーマは「大衆」であり「大衆の幻像」である。元々世を憂い政策云々を思考し議論するのはエリートの仕事だった。エリートはかなりの確率で元々金持ちであり特権階級の子弟だった。しかし、四民平等思想の下でしかれた教育制度の下で、エリート予備軍たる金持ちの子弟は公立小学校に多くは通学し、やがて上級学校(旧制中学校であり旧制高等学校)に進む段になって、階級格差ゆえに上級学校に進めない庶民階級の同級生を目の当たりにすることでエリート予備軍たちはエリート・コンプレックス(金持ちの子供に生まれたばっかりに、僕だけが良い思いをして申し訳ない)を持つようになる。そして、「あるべき世の中」を考えるに際して、こうしたエリート予備軍たちは脳内で「大衆幻想」を持つようになり、おびえ、懊悩したというのである。残念ながらというか、私にはこうしたエリート・コンプレックスは一切ない。私自身がまぎれもないエリートの一員であるにもかかわらずだ。おそらく、私が生まれた時点で日本は四民平等の社会がついに実現していたことが大きいのであろう。

本書では二人の政治家が血祭りにあげられている。ポピュリスト政治家の権化小沢一郎と反知性主義のグロテスクな象徴橋下徹である。著者の橋下市長に対する筆致はとりわけ厳しい。

以前にも書いたが、どうも著者は石原慎太郎なる愚劣な作家を一橋大学の象徴にしたいようなのだが、何度でも言う。石原慎太郎は一橋大学の卒業生ではあるが、それ以上でもそれ以下でもなく、石原に「一橋的なるもの」を代表させるのには無理がある。これは自殺した三島由紀夫に「東大的なるもの」を象徴させることに無理があるのと、同じ構造だと思う。むしろ本書の功績は、いまや完全に忘れ去られつつあるメディア知識人の走り、加藤秀俊を一橋大OBとして取り上げたことであろう。いま読み返しても加藤が当時縦横無尽な活躍していたことが見て取れる。

 民主主義が定着した自由主義世界では、主にマスコミが想定する大衆(著者はこれを実在する現実の大衆ではなくマスコミによる大衆の幻像と規定する)によって政治家・官僚からマスコミ自身迄が引き摺りまわされ、小突き回されて、大衆幻像による高圧釜の中に置かれていると言う。現在の日本の状況は全くその通りで、有能な政治家が将来の国家のために働こうとしても、目先の欲に捉われた大衆に抑圧されて、大衆に迎合することしか許されない世界に陥っている。分析は鋭く、現状説明は明確にされているが、一方でそのような状況に対する対応策・処方箋が示されていないので、今後世界はどうなって仕舞うのだろうと言う不安に襲われる。多分、著者自身も対応策は考え着かないのか、対応策はないと思っているのだろう。その分、星ひとつ減りました。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

大衆の幻像 を買う

アマゾンで購入する
中央公論新社から発売された竹内 洋の大衆の幻像(JAN:9784120046193)の感想と評価
2018 - copyright© アマゾン通販の感想と評価 all rights reserved.