国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書) の感想
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参照データ
タイトル | 国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 細谷 雄一 |
販売元 | 中央公論新社 |
JANコード | 9784121021908 |
カテゴリ | ジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 政治入門 |
購入者の感想
決して奇を衒うことのないオーソドクスな国際政治学である。著者は坂本義和と高坂正堯という戦後を代表する二人の国際政治学者の対比から筆を起こしているが、一読して著者が高坂から決定的な影響を受けているのは明らかだ。(著者は高坂の没後20年記念論集『高坂正堯と戦後日本』にも一文を寄せている。) 理想主義的で典型的な「進歩的文化人」の坂本に対し、高坂は現実主義の保守反動とされることも多いが、国際政治を「力の体系(=勢力均衡)」「利益の体系(=相互依存)」「価値の体系(=理念の共有)」という三層構造で理解する高坂は、単純なリアリストでもリベラリストでもない。その国際政治観は本書でも度々引用されるヘドリー・ブルら英国学派に通ずるものがあり、理論より歴史を重視し、現実と規範双方にバランスよく目配りする。
既に指摘されていることだが、著者の言う「均衡の体系」「協調の体系」「共同体の体系」という国際秩序を規定する三つの原理は、50年前に高坂が提示した上述の三層構造にほぼ対応する。近代のヨーロッパ外交は「均衡と協調」(大国間会議による利害調整)に支えられたウィーン体制を経て、ビスマルク時代の「協調なき均衡」(剥きだしのリアルポリティーク)が破綻して第一次大戦に突入するが、その反省にたったウィルソンの「均衡なき共同体」(国際連盟の理想主義)も第二次大戦によって挫折する。結局、三つの原理のどれか一つを欠いても国際秩序の安定は保たれない、という平凡ではあるが極めて深い歴史的洞察が本書の結論だ。
既に指摘されていることだが、著者の言う「均衡の体系」「協調の体系」「共同体の体系」という国際秩序を規定する三つの原理は、50年前に高坂が提示した上述の三層構造にほぼ対応する。近代のヨーロッパ外交は「均衡と協調」(大国間会議による利害調整)に支えられたウィーン体制を経て、ビスマルク時代の「協調なき均衡」(剥きだしのリアルポリティーク)が破綻して第一次大戦に突入するが、その反省にたったウィルソンの「均衡なき共同体」(国際連盟の理想主義)も第二次大戦によって挫折する。結局、三つの原理のどれか一つを欠いても国際秩序の安定は保たれない、という平凡ではあるが極めて深い歴史的洞察が本書の結論だ。
3つの基本原理と五大国の離合集散を手がかりに、過去300年の国際政治を読み解いている。国際政治では最近、民間機関もプレーヤーと認識される。だが、要素が多すぎてかえって国際政治の全体を構想することが至難になっていた。本書は大国間の国家間関係に単純化することで、国際政治の大きな流れをシンプルに捉えようとしている。
過去300年間、5つの大国が世界の戦争と平和に重要な影響を与えた。そして、五大国の関係を作ったのが、「均衡」「協調」「共同体」の原理だ。均衡とはパワーオブバランス。相手に「簡単には要求が通りそうにない」ことを理解させ、手出しさせないこと。「協調」は、外交や会議によって揉め事を解決すること。「共同体」は、平和維持の組織に大国が参加すること。大国間で3原則を用いて対立しつつ均衡を保っている時は平和だ。だが、同盟の組み換え、あるいは五大国の急速な発展や衰弱があると戦争になる。
18世紀初頭から第一次世界大戦までは英仏普露墺だった。戦間期、冷戦時は米ソ日英独、ソ連崩壊&EU成立後は米中露欧日。五大国間で多数を取った側が常に次の国際政治をリードする。ビスマルク時代まで、英国はヨーロッパ大陸にフランス一国に占められることを警戒した。そのため、英普墺露は対仏大同盟や三帝同盟で連携していた。ビスマルク後、ドイツが膨張主義に転じると、フランス封じ込めは英仏露協商による独墺封じ込めに変わる。そしてメンバーは変わったが、第二次大戦で連合国によるドイツ封じ込めは終わり、冷戦期は、米英日独の自由主義同盟によるソ連封じ込めになった。
急成長した中国は近年、膨張主義を指向し、東アジアでのパワーバランスが変わっている。多極化が進んだ今、日本がなお五大国であるか疑問はある。しかし、日本が大国の一つなら、米国の支持を得て、中国との間で力の均衡を維持し、封じ込めることが、東アジアの平和を保つために必要だ。日本が衰弱し、米国が関与を減らせば、東アジアは不安定になる。本書を読むと、日米関係を維持する意義は明らかだ。日米欧は民主主義国家であり同盟を結んでいる。中国がロシアと軍事同盟を結ぶかは分からない。だが、結んでも5国中の2国では日米欧に勝てない。世界政治の勝者となるのは、常に五大国の多数派だった。
過去300年間、5つの大国が世界の戦争と平和に重要な影響を与えた。そして、五大国の関係を作ったのが、「均衡」「協調」「共同体」の原理だ。均衡とはパワーオブバランス。相手に「簡単には要求が通りそうにない」ことを理解させ、手出しさせないこと。「協調」は、外交や会議によって揉め事を解決すること。「共同体」は、平和維持の組織に大国が参加すること。大国間で3原則を用いて対立しつつ均衡を保っている時は平和だ。だが、同盟の組み換え、あるいは五大国の急速な発展や衰弱があると戦争になる。
18世紀初頭から第一次世界大戦までは英仏普露墺だった。戦間期、冷戦時は米ソ日英独、ソ連崩壊&EU成立後は米中露欧日。五大国間で多数を取った側が常に次の国際政治をリードする。ビスマルク時代まで、英国はヨーロッパ大陸にフランス一国に占められることを警戒した。そのため、英普墺露は対仏大同盟や三帝同盟で連携していた。ビスマルク後、ドイツが膨張主義に転じると、フランス封じ込めは英仏露協商による独墺封じ込めに変わる。そしてメンバーは変わったが、第二次大戦で連合国によるドイツ封じ込めは終わり、冷戦期は、米英日独の自由主義同盟によるソ連封じ込めになった。
急成長した中国は近年、膨張主義を指向し、東アジアでのパワーバランスが変わっている。多極化が進んだ今、日本がなお五大国であるか疑問はある。しかし、日本が大国の一つなら、米国の支持を得て、中国との間で力の均衡を維持し、封じ込めることが、東アジアの平和を保つために必要だ。日本が衰弱し、米国が関与を減らせば、東アジアは不安定になる。本書を読むと、日米関係を維持する意義は明らかだ。日米欧は民主主義国家であり同盟を結んでいる。中国がロシアと軍事同盟を結ぶかは分からない。だが、結んでも5国中の2国では日米欧に勝てない。世界政治の勝者となるのは、常に五大国の多数派だった。
ヨーロッパの近代の歴史を通じて均衡→協調→共同体と進化した
国際秩序を解説していく。特に19世紀初めに勢力均衡による
ウィーン体制(イギリス・オーストリア・プロイセン・ロシア・フランス)の
ヨーロッパの秩序体制、そして20世紀初めのウィーン体制の崩壊による
第一次世界大戦の発生、アメリカ、日本、ドイツの台頭による
第二次世界大戦の発生、戦後の冷戦体制とその崩壊を通じて、
国際秩序の歴史について詳細に解説している。
著者は、中国が台頭する東アジアの国際秩序について
アメリカの東アジアへの関与、日米同盟、日本のパワー回復による
「均衡の体系」を維持することが不可欠であると冷静に締めくくる。
国際関係の利害の中でリアリスティックに各国が戦略をとる中、
パワーが無ければその秩序への関与もできなくなる。
ヨーロッパの歴史は経済的・軍事的な「均衡」があってこその
「協調」「共同体」といった国際秩序が成立していることからも、
東アジアに住む我々、日本人は、冷静にその歴史的事実から学び、
来る22世紀への生き残りをかけたリアルな外交戦略を実践すべきであろうと思う。
短絡的に言えば、アメリカと日本が弱ければ、東アジアはすぐに
新興の中国の影響下に入り、日本が東アジアだけでなくアジア全体への
国際秩序関与もできなくなるのは、国際秩序の歴史から明らかである。
いま我々、日本人が取る戦略は明白なのである。
国際秩序を解説していく。特に19世紀初めに勢力均衡による
ウィーン体制(イギリス・オーストリア・プロイセン・ロシア・フランス)の
ヨーロッパの秩序体制、そして20世紀初めのウィーン体制の崩壊による
第一次世界大戦の発生、アメリカ、日本、ドイツの台頭による
第二次世界大戦の発生、戦後の冷戦体制とその崩壊を通じて、
国際秩序の歴史について詳細に解説している。
著者は、中国が台頭する東アジアの国際秩序について
アメリカの東アジアへの関与、日米同盟、日本のパワー回復による
「均衡の体系」を維持することが不可欠であると冷静に締めくくる。
国際関係の利害の中でリアリスティックに各国が戦略をとる中、
パワーが無ければその秩序への関与もできなくなる。
ヨーロッパの歴史は経済的・軍事的な「均衡」があってこその
「協調」「共同体」といった国際秩序が成立していることからも、
東アジアに住む我々、日本人は、冷静にその歴史的事実から学び、
来る22世紀への生き残りをかけたリアルな外交戦略を実践すべきであろうと思う。
短絡的に言えば、アメリカと日本が弱ければ、東アジアはすぐに
新興の中国の影響下に入り、日本が東アジアだけでなくアジア全体への
国際秩序関与もできなくなるのは、国際秩序の歴史から明らかである。
いま我々、日本人が取る戦略は明白なのである。