井上ひさし短編中編小説集成 第2巻 の感想

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参照データ

タイトル井上ひさし短編中編小説集成 第2巻
発売日販売日未定
製作者井上 ひさし
販売元岩波書店
JANコード9784000287623
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 全集・選書 » 個人全集

購入者の感想

 第1巻が「意外にも」面白かったので、2冊目に手が伸びました。

 ここに収録されているのは「モキンポット師の後始末」、「四一番の少年」、「イサムよりよろしく」、それに加えて「一二の微苦笑譚」「うちの可愛い一個連隊」という二本の単行本未収録作品です。

 いずれも著者の最初期の作品ばかりで、大阪弁を喋るユニークなカトリックの神父が若き主人公を温かく応援する大冒険ユーモア小説「モキンポット師の後始末」、著者の孤児院時代の思い出を描いた児童小説「四一番の少年」、そして著者の浅草修業時代の体験を題材にした「イサムよりよろしく」も著者のストーリーテリングの抜群の面白さに圧倒されます。

 しかしここでは、それらの八面六臂の大活躍の起点となった「一二の微苦笑譚」に注目しましょう。

 私はとりわけ9の「掻巻」、10の「老後の計画」、11の「突出計画」に大いなる感銘を受けましたが、これらの超短編こそは、彼のその後の文芸的進化を裏打ちし、強力に後押しした、未だ磨かれざるダイアモンドの原石だったのです。

 作家作品集の第一、二巻というものは、後の円熟した作品群とは別の趣があって興味深い。もちろん完成度という点では劣るだろう。しかし若書きゆえにほとばしるエネルギー、既存の権威に抗い立ち向かっていくその姿勢には好ましいものがある。
 今回初めて本に収められた「十二の微苦笑譚」は解説で今村忠純も書いているように、後の小説やエッセイの「創作ノート」と化したかのような、原型(ウル)井上ひさしである。ここで得られた着想、題材が、後の作品でどのように成長、発展していったのか、一つ一つ確認する楽しみが、読書の喜びであろう。
 それにしても、「モッキンポット」シリーズにしても浅草ストリップもの(「イサムよりよろしく」他)にしても、そして孤児院もの(「四十一番の少年」ほか)も、今読んでも古びていない。可笑しいところはおかしく、切ない部分は哀しく。これらに伍する現代作家がどれほどいるか。若い人たちにも是非手にとってもらいたい。
 そして「まとめて再読する」という愉しみ。「四十一番の少年」の松尾昌吉が「吉里吉里人」ではユーイチ小松(吉里吉里小学校付属大学教授)となり、未完の遺作「一週間」では小松修吉と、ほとんどアナグラムのように変容していく様子を確認しよう。その原点である「モッキンポット」で主人公は既に「小松はん」と神父に呼ばれていた。
 まとまった一冊の小説論が全くない作家である。これを機会に読み応えのある論の展開を見たい。

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