丸谷才一全集 第十二巻 選評、時評、その他 の感想

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参照データ

タイトル丸谷才一全集 第十二巻 選評、時評、その他
発売日販売日未定
製作者丸谷 才一
販売元文藝春秋
JANコード9784163827506
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 全集・選書 » 個人全集

購入者の感想

 若島正によれば、桑原武夫の『文学入門』(岩波新書)に次のような言葉が書かれているという。《文学は、はたして人生に必要なものであろうか?この問いはいまの私には、なにか無意味のように思われる。私はいま、二日前からトルストイの『アンナ・カレーニナ』を読んでいるからだ。・・・文学は人生に必要か、などということは問題にならない。もしこのような面白い作品が人生に必要でないとしたら、その人生とは一たいどういう人生だろう!》
 こんなことを書きだしたのは本書のなかで、『アンナ・カレーニナ』について著者が《作中人物は、確かに生けるがごとく書いてあるとは思うんです。その点はみなすばらしい。でもねえ、にもかかわらず、この人物は好きだ、魅力があるという人が一人も出てこない》などと言い、ドストエフスキーの諸作品とくらべ、この小説が著者に面白いと思わせなかったらしいことがインタビュアーを前にして語られているからだった。
 よりによって『アンナ・カレーニナ』を、と私は思ったのだが、どうも著者は、このインタビューのしばらく前にイギリスで出版された『トップテン 作家が選ぶ愛読書』で『アンナ・カレーニナ』が1位になっており(125人の作家が選んだトップテンで、2位は『ボヴァリー夫人』)、一種の「標的」として選んだ形跡がある。またドストエフスキーとくらべたのは、トルストイよりはるかにドストエフスキーの読者が多い日本人向けのアピールとも考えられる。
 世間で最高度に評価されたものを逆に批判したり、日本の多数読者におもねったりは推測にすぎないとしても、『アンナ・カレーニナ』を読んだ著者が、その発端から登場する人物ひとりひとりに魅了されなかったというのは本人みずからの証言である。このことを「好み」の問題にしていいのかというのが私の、著者丸谷才一に対する疑問なのだ。
 全集最終巻である本書には、各文学賞の選評がおさめられている。多いときは一年で六つもの文学賞の選考をしているが、そうなれば自分の読みたくもないものをたくさん読まざるをえない。そうした重圧が、そのさまざまな登場人物に多くの人々が(私もそのひとり)魅惑されるしかない『アンナ・カレーニナ』に対する不感症気味の読み方を、著者にさせたのかもしれない。

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