ホームレス歌人のいた冬 (文春文庫) の感想

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タイトルホームレス歌人のいた冬 (文春文庫)
発売日2013-12-04
製作者三山 喬
販売元文藝春秋
JANコード9784167838966
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

購入者の感想

 本書の刊行を新聞広告で知った時、「やっぱりお節介な人はいるものだ。もうそうっとしておけばいいのに」と思ったのだが、同時にすぐに読みたくなったのも確かである。リーマンショックに揺れる時期に朝日歌壇に登場して入選を重ねながらも、9カ月で投稿の絶えた公田耕一氏。その歌の内容と「ホームレス」という肩書が大きな反響を呼んだ。歌の内容から公田氏が横浜寿町周辺に居ることは推測できたが、歌壇担当者からの度々の呼びかけにも拘わらず遂に所在地を明らかにせず、音信を絶ったのである。
 公田氏の正体については「知りたくもあり、知りたくもなし」という天声人語氏の表現が、私の気持ちを代弁している。公田氏が歌をもって自己表現されているかぎり、歌をもって全てを汲み取るべきだと思う。氏の歌はどれもが感情の抑制が効いて、含羞の強い人である。それは、読者をして氏が秘匿していることをあえて暴くような試みをためらわせる。その一方で抑えきれない好奇心がある。突如に消息を絶ったという事実が好奇心に拍車をかける。こんな矛盾した心情に投じられた本書である。
 著者は、朝日新聞の元記者でフリーライター、しかし行き詰って転職も思案する身である。我が身に降りかかる転落への不安が、公田氏の境遇に重なって、彼を追い求めるルポルタージュの動機となる。著者は寿町に何カ月も通って、ドヤ住まいも体験しながら、公田氏を探し求める。その中で、高齢化した寿町の現実やホームレスという境遇の厳しさが明らかになって、それはそれとして非常に興味深かった。
 公田氏の所在探索は予想されたように難航を極める。実在しているのかという疑念さえつきまとう。ここはやはり手練の記者、ミステリー風な展開で緊張感をもって著者の探索行に読者は付き合うことになる。公田氏とのコンタクトの一歩手前までいったり、意外な人物に出会ったりという山場もある。
 著者は一連の取材の過程で公田氏の人物像や短歌という表現の意味について思索を深めていく。逆境のなかで自己の尊厳を支える「表現」を寿町の識字教室に重ねて論じられたりする。また、公田氏の歌に反応した読者も取材して、作者と読者との関係について思いもめぐらされる。

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