Emperor of All Maladies: A Biography of Cancer の感想

219 人が閲覧しました
アマゾンで購入する

参照データ

タイトルEmperor of All Maladies: A Biography of Cancer
発売日販売日未定
製作者Siddhartha Mukherjee
販売元Fourth Estate
JANコード9780007250929
カテゴリ » 洋書 » Special Features » all foreign books

※サンプル画像

購入者の感想

エールリッヒが発見したサルバルサンによる梅毒の治療が化学療法の嚆矢であるとされが、癌の化学療法の始まりはいささか特異な経緯がある。1943年第2次世界大戦中のイタリアの港に停泊していたアメリカの輸送船に対して、ドイツの攻撃機が爆撃し、中に積んでいた毒ガスであるマスタードガスがまき散らされアメリカの乗組員と周囲の住人に大きな被害が出た。白血球減少に陥った人が多く、事件を調査したイェール大学の GoodmanとGilman(薬理書で有名)はこれにヒントを得て、悪性リンパ腫の患者にナイトロジェンマスタードを投与し、一時的な寛解を得た。しかしこの事実は戦後まで隠されていた。著者のSiddhartha Mukherjeeはoncologist(腫瘍専門医)で手術(主に乳癌)やX線治療の話もあるが、癌の化学療法の話が中心である。戦後、小児の急性白血病(ALL)に対して葉酸拮抗剤が使われたのを皮切りに、多剤併用療法へと発展し、白血病が治癒するまでになったが、化学療法はついには固形癌(乳癌)に対して、自家骨髄移植と大量化学療法を行うところまで突き進んでいった。しかしこの話は南アフリカの医者が都合のいいデータを捏造したところでオチがついた。これは癌手術においてハルステッドのradicalmastectomyのように、しだいに拡大、過激な方向に進んでいったことを彷彿とさせる。癌研究の予算獲得と寄付募集のキャンペーンはいかにもアメリカらしいエピソードである。発癌物質の発見は19世紀ロンドンの煙突掃除人に生じたススによる陰嚢皮膚癌が始まりであるが、なんと言ってもタバコが癌予防の最大の問題である。巨大資本であるタバコ会社との発癌性や広告にたいする法廷闘争と、マンモグラフィーによる癌検診の有効性の話は医療関係者であれば知っておくべきである。後半は発癌ウイルス、フィラデルフィア染色体、oncogene、suppressor gene

がん発生の機序の解明と治療及び撲滅活動に情熱を注いだ先人たちの軌跡を記したノンフィクションで、ニューヨークタイムズが選んだ2010年のトップ10書籍の一冊。紀元前の乳がんより今日の抗がん剤グリベックの開発までの様様な史実とその裏に隠された逸話を綴っている。著者は白血病の専門医で、生命の質への配慮を欠き行われた治療には心を曇らす患者思いの臨床家であると共に、本書の筆致からも分かる有能な作家でもある。細胞レベルの話のところには水谷哲先生の武勇伝が語られている他、花房秀三郎博士の華華しい研究成果が記述され、日本人として鼻が高い。今後の研究課題とその難しさ、それ故の予防の大切さにも言及している。医学,科学に加え社会面からの挑戦記録で内容は豊富、考察も十分で、がんについての見識を深め、本質を知るための最適な参考書となつている。ただ専門用語が多く「どなたにもおすすめ」とはいかないが、この領域に関係している方、特に将来の担い手の方にとっては打って付けの一冊だと思う。 

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

Emperor of All Maladies: A Biography of Cancer を買う

アマゾンで購入する
Fourth Estateから発売されたSiddhartha MukherjeeのEmperor of All Maladies: A Biography of Cancer(JAN:9780007250929)の感想と評価
2018 - copyright© アマゾン通販の感想と評価 all rights reserved.