大停滞 の感想

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タイトル大停滞
発売日販売日未定
製作者タイラー・コーエン
販売元エヌティティ出版
JANコード9784757122802
カテゴリジャンル別 » ビジネス・経済 » 経済学・経済事情 » 経済学

購入者の感想

2017年になってやっと読む機会が得られました。2011年の発刊から6年が経っていますが、十分説得力があると思います。他のレビュワーの方も書かれていますが、本書のメッセージは大きく2つあると思います。
1.「容易に収穫できる果実」が少なくなってきた
2.近年のイノベーションの多くが「公共財」ではなく「私的財」の性格を帯びている

全体的な説得力はありますが細かい点は違和感を感じました。1点目については、容易に収穫できる果実として「無償の土地」「イノベーション」「未教育の賢い子供たち」です。イノベーションについては違和感を感じました。著者が言いたいことは、近年のイノベーションは漸進的でインパクトが小さいこと、また2点目に関係しますが、特定の人だけが恩恵を受けるものが多い、ということだと思いますが、そもそもインパクトが大きいイノベーションなんていうものは今も昔も「容易に収穫できない果実」であって、イノベーションの大半は漸進的なものです。ですからイノベーションに関しては1970年以降になって「容易に収穫できる果実」がなくなってきた、という著者の主張は間違っていて、現代社会は「容易に収穫できる漸進的なイノベーションだけ」を享受していて、社会に巨大なインパクトを与えるイノベーションは見られない、というのが正確な記述でしょう。

2点目の主張は説得力がありました。例えば10億ドルの価値を生み出すイノベーションであっても、それが10人かける1億ドルの価値を生み出すよりも、1億人かける10ドルで価値を生み出す方がよりマクロの経済成長に寄与するということでしょう。これは新しい視点を提供してくれました。

この手の書籍ですとMITのブリニョルフソン、マカフィーなどの本が代表的ですが、彼らはMITにいることもあって基本的にポジティブなことばかり書きます(彼らのレゾンデートルにも関わるからです)。その点コーエン氏はテクノロジーに対して中立的に書かれているので好感が持てました。本書、短時間で読めますし一度は目を通しておくべき本だと感じました。

著者は割と異端派の経済学者が多いジョージ・メイソン大学経済学部の教授で、ブログ「Marginal Revolution」の運営者。
ブログでも面白い視点を提供してくれていますが、本書もまた新たな視点でアメリカ経済を捉えており、本国では随分と論争を巻き起こした模様。
本書での著者の主張は、少し乱暴にまとめると「アメリカって実はそんなに経済成長してないんじゃない?」「その原因(の一つ)はイノベーションの停滞だよ」ということ。
今まで、自分たちが経済成長に成功していると考えていたアメリカ人(特に経済学者)に対し、経済成長は「勘違い」と指摘した訳ですから、そりゃ論争も巻き起こります。

内容にざっくりと触れますと、
1章で過去の経済成長のドライバーを指摘し、その中で特にイノベーションが減速していると主張
2章は経済指標がいかにして実態から乖離した数値を示すかの具体例
3章ではイノベーションの中で、いかにインターネットが特殊な存在であるかを指摘
4章は低成長下での政治がいかに困難なものとなるかを説明
5章では「経済成長は勘違い」という文脈で、先般の金融危機を再考
最終章では、それでもアメリカ経済の将来を楽観視してもよい(かもしれない)理由を挙げて締めくくり
といった流れです。

論理展開がやや粗い、主張が結晶化されていない、といった不満はありますし、
4章と5章はやや取ってつけた感がある、など必ずしも良書ではないのかもしれませんが、
2章における経済指標の歪み・3章におけるインターネットの特異性の指摘が
非常に面白く、経済/社会を捉える上で非常に面白い視点を得ることが出来ました。

なお、読みやすい文面の割に、経済学の常識的な見方を暗黙の前提として書かれており、
かつ、それにも関わらず常識的ではない結論を導く箇所が多いので、
この本を読んで勉強するとか、この本だけに依拠して経済政策を語るのは危険かと思われます。

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