月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫) の感想
253 人が閲覧しました
参照データ
タイトル | 月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 上橋 菜穂子 |
販売元 | 偕成社 |
JANコード | 9784036524303 |
カテゴリ | ジャンル別 » 文学・評論 » 評論・文学研究 » 日本文学研究 |
購入者の感想
「守り人シリーズ」で名高い上橋菜穂子さんの比較的初期の作品。
レビュアーは、「精霊の守り人」アニメ版から、原作としての「守り人」シリーズを通して著者を知り、以来、愛読している。
本作は、古代九州の伝承に材をとったファンタジーである。
本人は、あとがきで若い時代の作で力不足と謙遜している。
文化人類学者である筆者が、小説家としての道を歩み始めて作品を著す。その過程で、感じたこと。物語としての長文で文章表現が追いつかない、書き馴れない、という思い。文間からも感じられることは確か。作者の気分が、そのまま筆に現れている。
でも、である。それも味わいであると考える。
よく読みこんでいくと、いくつもの発見がある。
本人は、この作品の執筆の経験が、よほど、心残りだったのだろう。レビュアーの勘違いかもしれないが、守り人シリーズで、モチーフへの再挑戦を試みているような感を受ける。そして見事に昇華している。「獣の奏者」「鹿の王」では、それぞれで、生命の不思議、運命の不思議に迫っているのも、深層に流れるのは…。
どこが、とは、ここでは書かないでおく。読んでみればわかる。
レビュアーは、「精霊の守り人」アニメ版から、原作としての「守り人」シリーズを通して著者を知り、以来、愛読している。
本作は、古代九州の伝承に材をとったファンタジーである。
本人は、あとがきで若い時代の作で力不足と謙遜している。
文化人類学者である筆者が、小説家としての道を歩み始めて作品を著す。その過程で、感じたこと。物語としての長文で文章表現が追いつかない、書き馴れない、という思い。文間からも感じられることは確か。作者の気分が、そのまま筆に現れている。
でも、である。それも味わいであると考える。
よく読みこんでいくと、いくつもの発見がある。
本人は、この作品の執筆の経験が、よほど、心残りだったのだろう。レビュアーの勘違いかもしれないが、守り人シリーズで、モチーフへの再挑戦を試みているような感を受ける。そして見事に昇華している。「獣の奏者」「鹿の王」では、それぞれで、生命の不思議、運命の不思議に迫っているのも、深層に流れるのは…。
どこが、とは、ここでは書かないでおく。読んでみればわかる。
この物語は、人間の文化の変容の中で、切捨てられた土地のカミやそれに象徴される精神へのオマージュであり、かつ切捨てて生きてきた人間の生き様をそのままに描くということをしているのだと思います。上橋さんの本はいつも、世界が人間のためだけにあるのではなく、さまざまな事象や生き物が折り重なって長い時間をかけてできたつながりのある世界であるということを語りかけてきます。わたしたちは人間だけで生きているのではなく、たくさんのもの・ことと関係があり繋がり、相補性があるのだと。けれど人間は、その中に住む人間とは異なる営みをしている存在を畏怖し、自分たちにとって利益ととるか、害ととるかでカミともオニとも名づけ、敬ったり恐れたり・・・自らの価値観に縛られていることも描かれています。しかしそれがいいとか悪いという次元にはありません。そうであること、を描いているのだと思います。キシメの弱さをも容赦なく描いていますが、彼女のこともそのままに受けとめて書かれているのでしょう。そして、それを直面化するもうひとりのカミの息子であるナガタチとの場面は激しく胸を打ちます。物語は最後の最後までどうなるかわからないままで、読み応えがありました。原始的な男性性、女性性の描写も素敵でした。荒削りな中に、今の上橋さんの土台部分がたくさんあって、よりその世界を知ることができたように思います。歴史的な部分では難解でしたが、もののけ姫とか、空色勾玉のイメージで読んでいました。本屋さんにあまり売っていない本ですが、お奨めです。