須賀敦子の方へ の感想

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タイトル須賀敦子の方へ
発売日販売日未定
製作者松山 巖
販売元新潮社
JANコード9784103700029
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

購入者の感想

 須賀敦子といえばイタリア、更にはヨーロッパですが、本書は留学するまでの日本での暮らしに焦点が当てられています。幼少期から戦争を経て、多感な十代~二十代の日々を、須賀敦子はどのように過ごしていたのか。
 著者の松山巌氏は、須賀が生まれ育った町や、学校(神戸の小林聖心、聖心女子大)などを訪れ、家族や友人らの声を聞くことで、須賀敦子の青春をかたどってくれています。
 どんな環境のもと、何に興味を持ち、成長をしてきたのか。私信の抜粋や晩年の出来事、須賀と著者の気取らない会話からも、久しぶりに須賀敦子の声に触れることができました。
 カトリックを選び、信仰の在り方に葛藤する。家族の問題、厳格な教会へ入信を決めた親友へのとまどい。そこには誰にでも訪れるであろう、不確かな青春が見えてきます。
 毅然とした印象の強い須賀敦子さんが、青春期にこんなにも揺らぎを抱えていたとは。短篇小説とも評される名エッセイの数々が生まれる土壌はここにあったのですね。あらためて、大好きな作品を読み直してみようと思います。
 本編中は執筆の対象として距離を置いて「須賀敦子」を書く著者が、あとがきで「須賀さん」と語り出すところで、ほろっときました。続編、楽しみにしています。

「私はこれから須賀敦子のことを辿ろうと思う。・・・記憶は、しかし生き物のように年々変化する。記憶違いも忘れたこともあり、それだけで須賀を語るわけにはいかない。ならばいっそ、彼女が読み、彼女が綴った文章に登場する本をまずは頼りにして、いま一度、彼女のことを振り返ってみたい」
こんな美しいイントロダクションから、ゆっくりと旅ははじまります。
幼い頃をすごした地を訪れ、須賀さんの家族、若き日の友人、編集者を訪ねる・・・。
著者自身と須賀さんとの交友を綴るときは抑制があり、淡々としていますが、
やはり根底に「須賀さんとの対話」、さらにいえば「愛」を感じるのです。
作家論とも評伝とも決め難いのですが、
須賀敦子という作家のなりたちを丹念に読む、文芸エッセイだと思います。

以下、目次(――は松山さんが出かけた場所)
1 父譲りの読書好き ――2010年冬・東京谷中、2009年夏・ローマ
2 激しく辛い追悼  ――2010年秋・兵庫県西宮市、小野市、東京東中野
3 「ぴったりな靴」を求めて ――2011年新春・東京麻布十番 
4  「匂いガラス」を嗅ぐ ――2011年春・東京麻布、大阪中之島、東京雑司が谷
5 戦時下に描く「未来」 ――2011年夏・川崎市登戸、東京白金
6  「曲りくねった道」の入り口で ――2011年晩夏・東京白金
7 遠い国から来た人間みたいに ――2011年冬・東京広尾
8 だれにも話せないこと ――2012年春・東京四谷
9 あたらしい生き方に向かって  ――2012年夏・東京信濃町
10 「思想の坩堝」のなかで ――2012年秋・名古屋、東京白金
11 海の彼方へ ――2012年冬・東京三田、兵庫県西宮市、神戸市

須賀敦子が没して16年、須賀の核心を突く評伝がようやく現れた。いかにして須賀敦子は須賀敦子になったかを愛情を込めて探究する松山巖。二人は生前に深い友情でつながっていたことがわかるが、本書にはべたべたしたところは一切ない。徹底した献身的な執筆姿勢には頭が下がる。鑿で丹念に削られて現れたのごとき、ひとつのたしかな、しかし一面的ではない人間像は感動的。しかし、よくあるように、一人の作家をひたすら崇め奉ったものとは一線を画す。須賀が書いたものを深く読み、須賀が読んだものを丁寧に読み、須賀と交流があったひとびとを取材する、その手さばきは鋭利にすぎるということはない。究極的なまでの誠実さに満ちていて、深い感動を禁じ得ない。須賀敦子がまったく稀有な人物であったことが明らかになるが、そこには安易な神秘化は避けられている。すべての須賀ファンは本書を読んでから、心して今一度、須賀と向かいあうべきなのではないだろうか。

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