[ケンブリッジ・コンパニオン] 徳倫理学 の感想

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日本では長らく冬の時代、不遇の時代だった徳倫理学が昨今ブームになりつつあり、信じられないほどのハイペースで関連文献が出版されています。本来は本書より遥かに早く発売するはずだったにも関わらず延期の繰り返しで未だ発売していませんが、徳倫理学の基本論文集もいずれは出るでしょうし、同時期に出るはずのマクダウェルも徳倫理学の立場と言って良いです。去年は徳倫理学の代表者であるフットやハーストハウスも訳されました。まさに怒涛の翻訳続きです。その中でも本書は最も大規模な労作であると言っても良いでしょう。値段は少々高いですが、分厚い本書の中身は非常に上質かつ濃厚で、概観、定義、歴史、比較、応用、批判など多数の論点を抑えています。儒教のような東洋思想の徳倫理が扱われているのも特徴的です。そのくせ、なかなか平易な文体で書かれており、入門に使う事も不可能ではありません。私見では既に入門を名乗っているフットやテイラーの本よりも遥かに入門書向けでしょう。あれらは入門としては質や偏りに問題があります。本書の入門書としての難点は、大きすぎる事と高すぎる事でしょう（近々その点を補った入門書も出るようです）が、しかし質的には文句なしです。

翻訳書は常々労作であり偉業であると思いますが、このような最新の大著を迅速に翻訳紹介した訳者達は大変偉大であると思います。最近じょじょに状況が変わりつつありますが、日本においては海外の倫理学の最新動向がそれほど紹介されているようには見えません。とりわけ徳倫理の知名度は低かったと思います。本書の存在によって、そのような状況は大きく改善される事でしょう。監訳者はさらにロスの翻訳もじき完成させる予定との事でもう頭が下がります。