アマルティア・セン講義 経済学と倫理学 (ちくま学芸文庫) の感想

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タイトルアマルティア・セン講義 経済学と倫理学 (ちくま学芸文庫)
発売日販売日未定
製作者アマルティア セン
販売元筑摩書房
JANコード9784480097446
カテゴリ » ジャンル別 » 人文・思想 » 哲学・思想

購入者の感想

 アマルティア・センの単行本を最初に文庫化したものです。本書は、センの入門書としては最適です。なぜなら講演をまとめたものですから、聴衆を意識して分かりやすさが考慮されています。そればかりか訳者が「人名・用語解説」を加えていること、この文庫版のために「索引」が作成され、訳語も修正されています。頁数の多い参考文献と注を除けば、本文は百頁ほどで、訳文に慣れたころには読み終えています。

 センの数々の提案(理論)のひとつ「潜在能力論」は、セン『貧困と飢饉』のカスタマーレビューにも書きましたが、栄養を摂る機能が十分に実現しているとか、自尊を持つ機能が充足しているといった、個々の機能も重要ですが、そればかりでなく様々な機能の集合を潜在能力と呼びました。潜在能力とは、何ができるか、どんな状態になれるかなど、その人の選択の幅、選択の自由を表したものです。

 潜在能力は、本書ではケイパビリティと訳語が変更されていますが、1986年に世界開発経済研究所(WIDER)で始まるマーサ・ヌスバウムとの共同作業から発展した概念です。センは潜在能力が具体的にどのようなものであるかを示すことをしないのですが、ヌスバウムは「ヌスバウム『女性と人間開発 潜在能力アプローチ』岩波書店」において、いつの時代にも通用するものではないと断りながら、リストを示しています。とてもよくできたリストなので、参考に供します。ただし説明は簡略化してあります。

人間の中心的な機能的ケイパビリティ(『女性と人間開発』p.92-95)
①生命; 早死にしないこと。
②身体的健康; 健康で、適切な住居に住めること。
③身体的保全; 自由に移動でき、主権を守れる境界を持つこと。暴力を受ける恐れがないこと。性の機会と性の選択の機会を持つこと。
④感覚・想像力・思考; 読み書きや数学的訓練などが真に人間的な方法で教育されること。自由の保障のもとに、宗教、文化、芸術、政治などの分野で、これらの機能を自分のやり方で追及できること。
⑤感情; まわりの人や物を愛せること、嘆けること、正当な怒りを経験できること。極度の恐怖や不安によって、感情の発達が妨げられないこと。
⑥実践理性;

 ノーベル賞経済学者であるアマルティア・セン氏が、経済学での人間行動の分析に、倫理学の見解も取り入れるべきであることを、述べた本。内容は、主に厚生経済学(社会での、財の最適な分配をめざす学問)の改善点について、であるが、セン氏の指摘は経済学全般に及んでいて、門外漢でも興味深く読める。
 セン氏は、経済学は「相互依存関係」の分析・解明をめざす学問、と述べる。「相互依存関係」とは、ごく単純に言えば、パン屋はパン職人さえいればできるものではなく、小麦農家や酪農家などの生産者や顧客、それにある程度の分業化が進んだ社会がなくては成立しない、という関係性のことである。
 このような社会的な関係性を分析するのが経済学であるのに、“人間を「自己利益の最大化」をめざす「経済人」としてしか捉えないのでは、実状と違った分析になってしまうのではないか”ということと、“その社会が持つ価値観(倫理など)が人間の行動に影響を与えるのだから、それも分析に取り入れるべきだ”というのが、この本の一貫したテーマである。
 セン氏は、「経済工学」の成果は高く評価しているが、ただその「工学」的分析のために、集計しにくい・数量化しにくい、などの事情で無視をされてきた人間の性向にこそ、行動のインセンティブがある、という。人間が「自己利益」を考えるのは、ごく自然なこと(個人なら家計であり、企業なら利益)であるが、一方で“その社会から容認される範囲で”考慮をするのが大抵の場合であって、常に「最大化」のみを考えるわけではない。それに、全員が「自己利益の最大化」のみを目指したからといって、社会や組織全体に「最適な経済状況をもたらす」とは限らないのである。

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