難民問題 - イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題 (中公新書) の感想

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タイトル難民問題 - イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題 (中公新書)
発売日販売日未定
製作者墓田 桂
販売元中央公論新社
JANコード9784121023940
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 政治入門

購入者の感想

 本書の構成は以下の通りである。
 第1章「難民とは何か」:難民と難民保護の歴史と現状。
 第2章「揺れ動くイスラム圏」」:イスラム主義の拡大とイスラム圏諸国の不安定化や紛争、そこに住んでいた人々の難民化の様相。
 第3章「苦悩するEU」:2015年前後に、イスラム圏からの非正規移動者を100万人規模で受け入れたEU諸国の理想主義的な対応と挫折・動揺。
 第4章「慎重な日本」:日本の難民政策の歴史と現状。
 第5章「漂流する世界」:21世紀の国際社会の変貌と国連の限界、国家の復権。
 終章「解決の限界」:難民政策への提言。
 著者の主張は「『難民に冷たい国』というイメージを与えながらも、適切な範囲で人道的に対処しているのが日本の難民行政(p.179)」「日本の場合、無節操な開放主義をとることなく、閉鎖性を保ちながら巧みに外界と接してきた。だからこそ海外の文化を受容しつつも、安定した社会秩序を享受している(p.229)」等に集約されるだろう。
 理想主義的な、あるいは人道的な立場から、著者の主張に賛同できない読者も多かろうとは思うが、「日本も難民をもっと積極的に受け入れるべきだ」とする場合、著者が指摘する「難民がもたらす負の影響(p.132)」への回答を用意する必要があろう。
 私は本書の内容に100%賛成するものではないが、上記の結論や、以下のような(難民受け入れに積極的な人にとって耳が痛い)指摘は傾聴に値すると思う。
「EUに非正規に流入する人々を一律に『難民』と称するのは全体像をゆがめて伝えることになる。(p.23)」
(法務省の難民審査参与員だった)「筆者は二年間で一〇〇人ほどの異議申立者を審査したが、偽装した難民申請者が大半だった。一般的だったのは就労目的の申請である。(p.172)」
「本質的に難民認定は当該国の内政を部外者が評価することである。その点では優れて政治的な行為なのである。(p.176)」
 他章に比べると、難民問題から離れた第5章は、議論が荒削りな印象である。

難民問題入門者として、本書を手にとってみました。本書は、「人道的な支援の理想は素晴らしいが、現実的に、これこれこのような理由や実情からして無理なので、どこかで一線を引くべきで、日本は難民条約の脱退も含め検討すべきだし、一度積極的に受け入れ出したら、未来の長期に渡り不可逆な影響が出る」というスタンスの著者により、現実的な観点から語られている本です。

読み進むにつれ、著者の主張に対する誘導的な内容と構成が目立ち始めるため、この点、少し抵抗を感じる方もいるかもしれません。ただ、それにかかわらず、論じられている内容は昨今の実情を得るのに素晴らしいと感じました。著者のスタンスを汲んだ上で、異なる意見を持つであれ、難民問題に興味を持ち始めた、どなたにでもおすすめしたい本です。

著者は後書きで、2014年に共著で出版された書籍について触れており、その本では、難民受け入れ側の議論が強調されすぎ、受け入れる側の視点が疎かになってしまった、その反省をふまえての本書である、と、語っています。この問題に非常に詳しい著者自身でも、昨今のEUの混乱を目の当たりにし、考えをあらたにする部分があったと言う最後の一文に、この問題の深さをより一層感じさせられました。

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