市川崑と『犬神家の一族』 (新潮新書) の感想
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参照データ
タイトル | 市川崑と『犬神家の一族』 (新潮新書) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 春日 太一 |
販売元 | 新潮社 |
JANコード | 9784106106446 |
カテゴリ | ジャンル別 » エンターテイメント » 演劇・舞台 » 演劇 |
購入者の感想
何故、晩年の市川崑の作品が駄作ばかりなのか合点がいかなかったのだが、本書を読んでようやく理解出来た。それは妻であり脚本家であった和田夏十の死による不在がもたらした損失の為。和田夏十が市川崑の傑作群に果たした功が如何に大きいものであったか。スタイリッシュな映像美ばかりが取り沙汰される市川作品の巧みな脚色の手法を明らかにして著者の手際は見事。
意表を突くキャスティングの妙、アニメーター出身が故の映像への拘り、記録映画らしからぬ内容で公開当時に物議を醸した『東京オリンピック』の分析など、新書というコンパクトな体裁ながらも卓抜した濃密な映画論となっている。
さらに市川崑の演出メソッドや人柄が如実に語られる石坂浩二への長尺インタビューは圧巻。金田一耕助というキャラクターに対する監督と石坂浩二の捉え方の相違や撮影時のエピソードは貴重な証言だ。特に『影武者』撮影中の黒澤明に市川崑が発した台詞には吃驚するが、娯楽作家に徹した彼の強烈な自負と映画へのスタンスが見て取れ、実に興味深い。そしてリメイク版の『犬神家』が無惨な失敗に終わった理由に現代日本映画が抱える宿痾を感じ、暗澹たる気分にさせられる。
本書読了後、オリジナル版の『犬神家の一族』は勿論、『野火』、『炎上』といった名作を再見したくなること請け合いだ。個人的には見逃していた『細雪』が猛烈に見たくなった。(著者が吉永小百合を監督クラッシャーと辛辣に評する件には苦笑を禁じ得ないが)
意表を突くキャスティングの妙、アニメーター出身が故の映像への拘り、記録映画らしからぬ内容で公開当時に物議を醸した『東京オリンピック』の分析など、新書というコンパクトな体裁ながらも卓抜した濃密な映画論となっている。
さらに市川崑の演出メソッドや人柄が如実に語られる石坂浩二への長尺インタビューは圧巻。金田一耕助というキャラクターに対する監督と石坂浩二の捉え方の相違や撮影時のエピソードは貴重な証言だ。特に『影武者』撮影中の黒澤明に市川崑が発した台詞には吃驚するが、娯楽作家に徹した彼の強烈な自負と映画へのスタンスが見て取れ、実に興味深い。そしてリメイク版の『犬神家』が無惨な失敗に終わった理由に現代日本映画が抱える宿痾を感じ、暗澹たる気分にさせられる。
本書読了後、オリジナル版の『犬神家の一族』は勿論、『野火』、『炎上』といった名作を再見したくなること請け合いだ。個人的には見逃していた『細雪』が猛烈に見たくなった。(著者が吉永小百合を監督クラッシャーと辛辣に評する件には苦笑を禁じ得ないが)